日米安保改定50年 新たな時代の同盟像を
「日本は知らず知らずのうちに、より一歩戦争に近づくのではあるまいか。核兵器が日本へ持ち込まれることになるのではあるまいか」−。
1960年1月20日付の本紙社説は、岸信介、アイゼンハワー両政権が19日調印した日米安全保障条約に、深刻な危惧(きぐ)の念を表明した。
条約は同年6月に発効。10年の期限を超えても破棄されず現在も効力は続いている。内閣府が昨年行った世論調査では「安保条約が日本の平和と安全に役立っている」と考える人は76%に上る。
「安保闘争」が全国に広がり、大きく割れていた世論は様変わりした。半世紀という時の長さを思う。
この間、日本は幸いなことに一度も戦火に巻き込まれることなく、安保体制の下で着々と「平和と繁栄」の道を歩んだ。この点を見れば、安保条約が極東の安定に有効だったといえるだろう。
安保条約だけではない。自衛隊の海外での武力行使や集団的自衛権行使を禁じる憲法9条が、ともすれば危うい場面で歯止めとなってきたことを見逃すべきではない。
しかし、日米安保体制は冷戦が終わった後に大きく変容し始めた。
2001年に米中枢同時テロが起きた後は、在日米軍が「極東」の範囲を超え中東まで出動している。日本も「テロとの戦い」の名の下に、イラクやインド洋へ自衛隊を派遣した。憲法上の疑義もつきまとう。
テロの続発や北朝鮮の核・ミサイル開発など、安全保障環境は激変している。鳩山由紀夫首相は19日に談話を発表し、「日米同盟を21世紀にふさわしい形で深化させたい」とあらためて強調した。
しかし、「深化」の形はいまだに明確ではない。安保条約は米側が日本防衛のために抑止力や軍事力を提供する一方、日本側は基地を提供することを基本にしている。
しかし、沖縄が在日米軍基地の負担を抱えてきたという重い現実がある。大きな問題となっている普天間飛行場の移設に対して、日米がどのような結論を出すのか。それが「深化」の内容を占う一つになるだろう。
安保体制の下の「闇」も出てきた。事前協議を経ずに米軍核搭載艦の日本通過と寄港を黙認する「核密約」など、日米がかわしてきた「密約」も次々に明らかになった。この解決も新たな時代に踏み出すためには欠かせない。
今の世界は、貧困や食料不足、地球温暖化、相次ぐ自然災害など克服すべき悩みをたくさん抱えている。それが紛争の引き金になることも少なくない。
安保条約は軍事的な側面だけが注目されるが、1条で国連の尊重と強化をうたっていることに注目したい。
世界の平和と安定を実現することは日米にも有益だが、平和は軍事力だけでは実現しない。紛争の原因となる問題解決に寄与する広い視野を持つ必要がある。新時代の日米同盟像を描いてほしい。
村井康典(2010.1.20)
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