2010年1月20日(水) 東奥日報 社説



■ 安全運航コストを削るな/日航が更生法申請

 業績不振が深刻になっていた日本航空が、会社更生法の適用を東京地裁に申請し、更生手続きを始めるという決定を受けた。日本の空の便の6割をカバーし、国を代表する大企業が経営破綻(はたん)した。

 これを受けて日航支援を決めた公的機関の企業再生支援機構(以下、機構と略す)が主導して3年間で再生を目指す。再生計画の柱は、日航グループの約3割に当たる1万5700人の人員削減、110社ある子会社を半減させる事業縮小といったリストラ策だ。

 ただ、日航には、乗客の命を守りながら安定的な運航を続ける公的な使命がある。リストラ効果を追求するあまり、安全運航に不可欠なコストや投資まで削ってはならない。政府は、運航に支障が出ないよう支援するという声明を出した。約束を実行してほしい。

 再生には痛みが伴う。金融機関は債権放棄を強いられ株主は損をする。従業員はリストラの対象になり、OBの年金も減額される。

 再生計画によると、国内外の不採算路線から大幅撤退するという。日航が単独で運航している青森、三沢両空港の路線はどうなるのか。とても気になる。

 再生計画は、政府や裁判所の監視・監督下で機構が管財人となり、主な債権者と合意した上で進める「事前調整型」で決まった。

 この法的整理の手法で再生への過程を透明化し、国民の納得を得られやすくする。再生の迅速化を図る。そうなるよう政府も機構も日航も力を尽くすべきだ。

 日航は、1951年の設立から足かけ60年間「日本の翼」とされてきた。23年前に完全民営化、8年前には日本エアシステムとの統合があった。経営改善のため公的支援も受けてきた。なのに、約2兆3千億円という、国内の事業会社としては過去最大の負債を抱えて破綻した。その理由も厳しく問われるべきだ。

 政府に頼りがちな“親方日の丸意識”から抜け出せなかった。放漫経営や社内抗争、複雑な労使関係などもあり、自らの高コスト体質を改められなかった。

 自民党政権時代の航空行政も問題視されている。地方に多くの空港を建設したが、赤字路線の廃止は先送り。日航の経営改善を官僚に任せ、官僚は日航などに天下りする。そんな政・官・業の癒着や甘えの構図にメスが入った。政権交代の意義かもしれない。

 だが、安全運航に必要なコストを削らず、事業の縮小も図る一方、収益力を上げて業績を急回復させるのは、とても難しそうだ。

 稲盛和夫・京セラ名誉会長が日航の会長兼最高責任者(CEO)に就任する予定だが、新経営陣には法的整理に伴う混乱が広がらないようにすることや、路線廃止の対象になる地方と十分調整することを求める。

 世界的にみると、欧米の航空大手も経営難に陥ったりして業界の再編が進み、国際競争が激化している。その中で、日航と全日本空輸という2社体制で生き残ることができるかという大きな課題が横たわる。

 機構などから多額の公的資金が投入されながら再生が失敗すると、国民にとって大きな負担になる。通常国会で、日航問題も突っ込んで議論してもらいたい。


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