中国で高速鉄道網整備が急ピッチで進んでいる。最高時速350キロで走る旅客専用の武漢(湖北省)-広州(広東省)線が昨年12月26日に開業したほか、鉄道省は2020年までに時速200キロ以上の高速鉄道を1万8000キロ整備する計画だ。利便性が大幅に向上し、「夢の超特急」の人気は高まるが、在来線に比べて高額の運賃に「金持ち用列車だ」との不満もくすぶる。【広州で鈴木玲子】
「中国が生んだ奇跡」。武漢-広州高速鉄道(武広線)の開業を中国メディアはこう絶賛した。最高時速350キロの高速鉄道は08年8月の北京-天津線(全長120キロ)開業に次いで2本目だが、武広線は1069キロと圧倒的に長い。所要時間も在来線の11時間以上から約3時間に大幅短縮された。カーブを少なくするためトンネルと橋が全線の67%を占める。投資総額は1166億元(約1兆5600億円)。武広線は北京-広州線の一部で、残る北京-武漢間は12年の完成を目指す。
車両は北京-天津線と同様に、東北新幹線の「はやて」をベースに日本側が技術供与したCRH2型と、ドイツの電機大手シーメンスが技術供与したCRH3型を使用。だが、中国は自国が知的所有権を持つ「国産」と強調する。
途中駅の長沙南駅(湖南省)から広州北駅まで乗車した。調和を意味する「和諧号」と名付けられた列車は長沙南駅を午後7時半発車。車内の電光掲示板に「時速346キロ」と表示されると乗客から歓声が上がった。列車は、最高時速を348キロまで上げた。中国ではまだ珍しい回転式の座席を向かい合わせにし、家族連れがトランプに興じていた。
午後9時45分、終着の広州北駅に到着した。在来線で約9時間かかるのが4分の1に短縮された。同駅は市中心部から北に約30キロ離れているが、今月30日には市南部の広州南駅が発着駅となる。
翌日、広州北駅を見下ろす陸橋に行くと、100人近い見物客であふれていた。地元の広東語より、中国の共通語で話す人が多い。郊外には工場も多く、出稼ぎ者の街であることを実感する。
湖北省出身の李飛さん(58)は駅に停車中の列車をフェンス越しに見つめていた。「あれに乗るとおじいちゃんの古里に帰れるんだよ」と抱き上げた3歳の孫に語りかけた。数年前、息子と共に出稼ぎのため広州に出てきた。毎年、春節(旧正月、今年は2月14日)の帰省を心待ちにしているが、高速列車での帰省は「料金が高すぎて話にならない」とあきらめ顔だ。
広州南駅-武漢駅間の運賃は1等780元(約1万500円)、2等490元(約6600円)。在来線の最も安い運賃は68元(約900円)で、差は最高で11倍以上だ。高額料金にインターネットには「出稼ぎ者には1カ月分の生活費に相当する。乗れるはずがない」との不満も漏れる。
一方、航空業界は割安チケットで対抗する。飛行時間は列車より短いが、搭乗手続きや空港への移動時間を含めれば高速列車と大差ないためだ。旅行会社の格安チケットには180元(約2400円)のものも登場した。
中国の専門家の中には「高額運賃などが響いて乗客数が伸びなければ、債務返済に必要な収入は見込めなくなる」との意見もある。しかし、中国共産党機関紙「人民日報」(海外版)は専門家の分析を取り上げ、「高速鉄道は中国経済の発展を推し進めるエンジンだ」と反論する。
毎日新聞 2010年1月8日 東京朝刊
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