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日航の更生法申請 公的支援これを最後に '10/1/20

 結局「大き過ぎてつぶせない」ということなのか。きのう会社更生法の適用を申請した日本航空である。毎年1万数千件に上る企業倒産のうち、再建へのシナリオを事前にここまで細かく描いたケースは前例がないだろう。

 負債総額は、2子会社を含め2兆3千億円を超す。事業会社としては過去最大規模の破綻(はたん)だ。しかも巨額の債権放棄や経営陣の一掃を求める厳しい法的整理。それでも概して冷静に受け止められているのは、官民出資の企業再生支援機構と政府が昨年末から周到に準備を重ねてきたためだ。

 裁判所の管理下で、支援機構が再生計画を練る。日航に3千億円以上出資するほか、つなぎの運転資金や現金取引に備え4千億円の融資枠を設けるという。政府系の日本政策投資銀行も2千億円まで融資できる態勢を整える方向だ。

 ただ、もし再建が進まずこの資金が回収できなければ、最終的に国民の負担になる。

 「日本を代表する企業」とか「生活インフラの空路を担う」として、日航の再建に公的支援の必要性を認める声はある。しかし資金繰りに四苦八苦の中小企業経営者や、解雇の危機にさらされる多くの労働者から見ると、釈然としないのではないか。特定の航空会社の存続が国民生活に不可欠とまでいえるかどうか。

 民間企業への直接の公的支援は市場経済になじまない。地域経済への影響度や関連業界の再編などを視野に入れて、総合的に判断するべきである。少なくとも支援は今回が最後だということを、日航は肝に銘じてほしい。

 これまでの案では、運航に欠かせない燃料代などの債権や繰り返し利用する客向けのマイレージは保護される。取引先や顧客の日航離れを食い止める狙いだろう。

 政府は、会長兼最高経営責任者(CEO)として京セラの稲盛和夫名誉会長の就任を決めた。「カリスマ起業家」の手腕で国民に安心感を与えようという意図がうかがえる。だが、何かと問題になってきた労使関係や内紛が新しいトップのもとですんなり収まるか、まだ楽観できない。

 資産などを8600億円も上回る債務超過に陥ったのだから、株主や大口債権者への打撃はやむを得まい。主力銀行は3500億円の債権放棄を了承したとされるが、さらに膨らむ可能性もある。

 従業員の大幅削減と不採算路線からの撤退も必至だ。企業年金の減額は退職者も含めて同意を得たものの、グループ約5万人のうち1万5700人をどう減らすのか。安全確保は航空会社の生命線だけに、難しい選択を迫られる場面も出てこよう。

 国内路線の縮小は、利用者もある程度覚悟しなければなるまい。採算が危ぶまれるまま地方空港を乱立させたのは航空行政の失敗だが、地元も誘致に走るばかりだった。悔いが残る。

 3年間でシナリオ通りに再生できるか。日航のすべての関係者と政府の責任は限りなく重い。




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