社説

親族の臓器移植/不公平感招かぬ配慮が必要

 家族が脳死状態になり、親族に臓器移植の待機患者がいたら―。多少の迷いを覚えながらも、提供に応じる人が少なくないのではないか。

 7月に施行される改正臓器移植法で、脳死となった場合に臓器を優先的に親族へ提供できる規定が17日から先行して施行された。15歳以上の人が書面で第三者に臓器を提供する意思とともに「親族優先」を意思表示していれば、脳死や心臓死と判定された際、必要とする親族に臓器が優先提供される。

 臓器移植法は制定時から「移植を受ける機会の公平性」を基本理念に掲げ、改正法でも受け継がれた。移植を受ける患者の選定は症状の重さや待機期間の長さなど、主に医学的要素と緊急性で判断され、公正を保ってきた。

 親族への優先提供はこれまでの判断材料とは別の観点で、移植される患者が決まる。日本臓器移植ネットワークによると、待機患者は全国で1万2000人を超える。親族がいない患者にとっては不利な状況が生じる可能性もある。患者らに不公平感を抱かせないよう、規定の趣旨などをしっかり理解してもらうことが重要になる。

 優先提供は移植の機会拡大につながるとして、改正法に盛り込まれた。親族に移植される臓器以外は、ほかの患者に提供されるためだ。
 日本世論調査会が昨年10月に実施した調査では「家族の同意で提供が可能」や「提供者の年齢制限撤廃」など主な改正点のうち、「評価する」という回答は「親族への優先提供」が85%で最も多かった。臓器提供意思表示カード(ドナーカード)の所持率は依然として低水準とされる。優先提供を認めたことは、ドナー登録のすそ野を広げる効用もあるとみられる。

 一方で、運用面では一段の配慮が求められる。厚生労働省は先行施行を前に指針を設けた。親族の範囲は「親子と配偶者」と定め、移植ネットの登録者に限定した。優先提供の意思表示をした上で自殺した場合、提供を認めないことも明示した。不幸な自殺の発生は移植医療の根幹を揺るがす恐れもあるだけに、厳密な運用が肝要だ。

 優先提供を受けた患者やその家族への精神的なケアも従来以上に大事になる。これまでの脳死移植は患者と提供者に接点はなかった。身内となれば、その死を受け止める必要もあり、心的な負担は小さくない。

 改正法は国会審議が尽くされたとは言えず、優先提供の指針決定が施行直前となったように、詰め切れていない部分が残る。ただ、移植医療の一層の推進は、待機患者らが待ち望んでいた側面もある。全面施行に向けて、あらためて脳死移植の在り方を考える機会にもしたい。

2010年01月18日月曜日

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