日米安全保障条約は19日、改定署名から50周年を迎えた。日米両政府は共同声明を発表し、両国の同盟関係深化に向けた協議を開始する。
日米同盟の基盤は軍事である。その根幹となる安保条約は時代の変遷とともに役割を変化させてきた。
1951年に締結された旧安保条約は、日本を朝鮮戦争に出撃する米軍の後方基地としたが、日本は、軍事を米国に依存することで経済復興に専心することができた。
その後、米国とソ連をそれぞれの盟主とする冷戦構造が続く一方、50年代後半の中台危機やベトナム情勢の悪化など東アジアの安保環境の変化も生まれた。日本国内では「55年体制」の成立で政治が安定し、経済も高度成長期に移行する。こうした状況を受けて締結された現在の安保条約の本質は、「対ソ・対中の軍事同盟」であり、日本がベトナム戦争の米軍出撃基地にもなった。
しかし、89年の冷戦終結、91年のソ連崩壊が日米安保見直しを迫ることになった。両国政府がまとめた96年の日米安保共同宣言は、日米安保を「アジア太平洋地域安定のための公共財」と位置付けるとともに、米軍への自衛隊の後方支援を可能とする法整備も導き出した。そして、01年の9・11後の「日本の国際貢献」は、自衛隊の活動領域・内容をさらに拡大するものだった。
冷戦時代の日米安保が軍事中心であったことは間違いない。が、日米同盟の下で日本の平和と安全が確保され、繁栄の条件となったことも事実である。安保改定半世紀を機に、自由と民主主義など基本的価値を共有する米国との同盟関係を、21世紀にふさわしい「世界の平和と繁栄のための公共財」に発展させることは日本の国益に資する。今、日米関係の「トゲ」となっている普天間移設問題の解決は、その前提である。
「ポスト冷戦」の20年間で、日本をとりまく安保環境は大きく変化した。隣国・北朝鮮は核実験と弾道ミサイル発射を繰り返している。大きな脅威だ。台頭する中国は透明性を欠いたまま軍備増強を図っている。軍事を背景にした抑止力は依然として有効であり必要である。
一方、9・11以降、国際的テロリズムが新たな世界の重要な安保課題となってきた。その温床となっている貧困や民族紛争への対応が求められ、新たな貧困を生み出す地球環境悪化や飢餓なども新しい安保問題ととらえて取り組む必要が生まれている。
重要なのは「軍事」と「非軍事」をバランスよく発展させることである。鳩山政権には、米政府との協議開始にあたって、これらの両立を図った重層的な同盟深化のビジョンを示してもらいたい。
毎日新聞 2010年1月19日 東京朝刊