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社説

水俣病和解協議 実態に正面から向き合え 2010年01月16日

 水俣病の未認定被害者の救済をめぐる問題が15日、節目を迎えた。

 水俣病不知火患者会(原告数約2千人)が、国と熊本県、チッソに損害賠償を求めた熊本地裁の訴訟で、原告、被告双方が和解協議入りを確認した。環境省は裁判所の和解内容を訴訟外の団体にも適用し「全面解決」を目指す方針で、協議が大きな意味を持つのもこの点にある。

 水俣病と認定されない被害者の救済では、自民、公明両党と民主党が政権交代目前の昨年7月、水俣病特別措置法を成立させた。被害者に一時金などを支給。一方で、財源を負担するチッソを患者補償部門と事業部門に分け、将来は補償部門を清算する分社化を盛り込んだため、チッソ救済の法律との批判がある。

 1959年の見舞金契約や73年の一次訴訟判決と補償協定は認定患者が対象。その後、認定基準が事実上変更され、棄却者が増えて社会問題化。95年に村山富市政権下で政治決着が図られ、一時金260万円や団体加算金などが支給された。

 しかし、政治決着に同意しなかった未認定患者の関西訴訟の最高裁判決で、国と熊本県の責任が確定。同時に行政の基準とは別の考えの幅広い認定基準が示され、認定申請や裁判に訴える人が急増、新たな対応が求められていた。

 特措法は、対象者の具体的要件や一時金の額など肝心な部分は未定。和解協議はこれらが中心テーマになるが、指摘しておきたいのは、被害の実態を踏まえることの重要性だ。事態を直視すれば対象者の基準も自ずから明らかになろう。被害者救済の問題が延々続くのは“処理”を急ぐあまり、被害の広がりと深刻さをそのまま受け止めるどころか、矮小[わいしょう]化してきたためではないか。

 特措法には、不知火海沿岸住民の健康調査も明記された。金額面だけでなく、和解協議ではこうした視点からの検討も必要だろう。

 政治決着の際、「和解へ追い立てられるような感じだった」との言葉が被害者から漏れた。苦渋の選択を被害者に強いた結果、どうなったか。それが私たちの眼前にある事態である。何のための政権交代か。水俣病裁判史上、国として初めて和解協議に参加する鳩山政権の意義も問われている。




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