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社説

戸別所得補償 幅広い支持得られる制度に 2010年01月15日

 政府はコメ農家を対象に2010年度から先行実施する「戸別所得補償制度」のモデル対策について、全国各地で説明会を開いている。営農の赤字を国費で補てんしながら減反政策の転換なども目指す内容だ。

 鳩山政権は新年度予算案で土地改良など農業関係の公共事業費を大幅に削って制度導入にあてるなど、従来の農政予算を組み替えた。土木・補助金農政からの脱却は不可避の流れで、制度の成否には農家だけでなく消費者など一般の関心も高い。

 一方で、政権交代から短期間で設計された制度は試行錯誤の印象が否めず、不安材料も少なくない。来週から通常国会が開幕する。与野党は「日本農業再生」という視点に立って、対策の課題や問題点に関する前向きな議論を深めてもらいたい。

 対策は、(1)コメ戸別所得補償モデル事業(2)水田利活用自給力向上事業-の二つが柱。食料自給率の向上が大きな狙いで、政府は対策を11年度から戸別所得補償制度を本格実施するためのステップと位置付ける。

 うち、(1)の対象は販売実績がある稲作農家。参加農家には水田10アール当たり一律1万5千円の定額金が給付されるほか、豊作などで米価が設定価格を下回った場合は生産費との差額分も追加で支払われる。

 全国平均の生産費を基に算出した定額部分の多寡については、評価が分かれている。ただ、規模拡大によるコスト削減や高付加価値化などを進める農家ほど有利で、政府は経営効率化を促す機能を強調する。

 支援対象を限定しない制度は構造改革に逆行するという批判もある。高齢化などで生産構造のぜい弱化が加速する中、担い手対策を含む構造改革は長年出口の見えない課題でもある。食料・農業・農村基本計画の見直しと絡めた議論を急ぎたい。

 モデル事業への参加は自由だが、参加農家は国の生産数量目標(生産調整)を守ることが条件となる。一方、不参加の農家は生産費の赤字は補償されないが、コメは自由につくれる。事実上の「選択減反制」だ。

 この仕掛けが米価の急落を招くのでは、という懸念が生産現場には根強い。政府は、事業の補償水準が十分に魅力的なため参加農家が増えて米価下落は起きにくいという。しかし米価急落時は財政負担も膨らむ。政府による価格調節の見通しを含めて、より丁寧な説明がほしい。

 麦や大豆、米粉用等の新規需要米などに転作奨励金を交付する水田利活用自給力向上事業は、コメの過剰生産を防ぐ役割も担う。ただ、現場では新規需要米など特定の作物が急増した場合の需給等の混乱や、従来より転作作物の選択幅が狭まりかねないことへの不安も聞かれる。

 国会審議ではWTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)など貿易自由化交渉との整合性も聞きたい。制度は、自由化進展に伴う将来の農産物価格下落への「備え」という側面が大きいと思うからだ。

 何より膨大な国税を投じる制度の成否は、納税者の理解にかかっている。制度は農家だけでなく消費者を含む国民にどんな恩恵をもたらすのか。政府は幅広い層の共感が得られるよう、制度と暮らしの具体的な展望に関する説明も尽くすべきだ。




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