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社説

日航法的整理へ 痛みを分け合う姿勢が要る 2010年01月11日

 経営危機の日本航空は法的整理の枠組みで再建される運びとなった。政府は同社に会社更生法を適用し、裁判所の管理下で債務削減を急ぐ方針である。官民が出資する企業再生支援機構も1月中に、出資や融資の金融支援を決める見通しだ。

 日航再建をめぐっては、日航自身や取引銀行のみずほコーポレート銀行などが政府の法的整理案に反発。みずほなど主力3行は私的整理による独自の再建案を作成して、国土交通省や支援機構に提示していた。

 一方、政府内では菅直人財務相ら“強硬派”が、一気に処理できる法的整理案を主張。当初は私的整理に傾いていた日本政策投資銀行や国交省も同調する姿勢に転じ、結局は法的整理で決着する見通しとなった。

 妥当な判断ではないか。かつては政府も出資していた“ナショナルフラッグ”の再建であり、これから多額の公的資金が投入される。透明性を確保する観点からは、法的整理の方が適当と言わざるを得まい。

 日航の経営不振は一昨年から取りざたされていた。にもかかわらず立て直せなかったのは、名門企業のプライドや政官界のしがらみが邪魔をしたためではなかったか。ここに至って、民間だけの話し合いで抜本的な再建に取り組むという主張は、説得力を欠いたということだろう。

 しかし、法的整理は日航をいったん破綻[はたん]させるという“荒療治”である。通常なら、企業の信用は失墜する。負のイメージがつきまとう手法であり、運航への支障や利用客離れをどうやって防ぐか、課題は多い。

 政府は日航再建に当たり、「事前調整型」と呼ばれる手法を採用する方針だ。裁判所や金融機関と事前に話し合い、会社更生法の適用申請と同時に支援機構が金融支援を決定する運び。同機構の査定では日航は8600億円程度の債務超過にある。このため金融機関に3千億円程度の債権放棄を要請。支援機構は日航に約3千億円を出資するほか、約4千億円の融資枠を設定する見込みだ。

 事前調整型の法的整理は、米自動車最大手ゼネラル・モーターズ(GM)の再建で採られた手法で、日本では初めて。「ある種の社会実験」と見る向きもある。それだけ政府の責任は重く、失敗は許されない。

 まずは、1便の運航もストップしないよう最大限の注意を払うべきである。信用不安が広がると、燃料の調達や空港使用料の支払いなどで現金決済を求められる可能性がある。政府と支援機構はこうした取引に混乱が生じないよう、十分な信用補完措置を講じていく必要があろう。

 問題となっていた企業年金の扱いについては現役社員分の約53%、退職者分の30%強を削減する案が示されている。現役社員の3分の2以上は賛同しているが、退職者の同意は難しい情勢。政府方針に対して不信感が広がっているためだ。同意期限は12日。否決の場合、支援機構は企業年金基金を解散させる方針。

 日航自体は抜本的なリストラを求められることになる。人員削減は1万5600人に上る見通し。企業年金とともに大きな痛みが伴う法的整理だが、痛みを分け合う姿勢がなければ再建はおぼつかない。「JALファン」はそこを見ている。




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