米国とロシアは昨年末に失効した第1次戦略兵器削減条約(START1)に代わる新条約締結へ交渉を続けているが年内に妥結できず、今月半ばから実務交渉を再開する。合意は近いともいわれたが、対立が残り早期締結は容易ではないようだ。
オバマ大統領が昨年プラハで「核のない世界」を目指すと演説。それを機に非現実的な理想と思われていた核廃絶は、各国が取り組むべき現実的な課題となった。新条約はその第一歩だ。交渉が失敗すれば高まった核廃絶への機運はそがれる。両国は重い責任に応えてもらいたい。
新条約をめぐり、両大統領は昨年7月にモスクワで会談、戦略核弾頭数を1675~1500、運搬手段を1100~500に制限することで合意した。対立しているのは、検証措置やミサイルなど核弾頭運搬手段の削減幅と、米国のミサイル防衛(MD)をめぐってだ。
START1の調印はソ連崩壊の約5カ月前だった。ロシアには軍事、経済的に圧倒的に優位だった米国に、地上移動式大陸間弾道ミサイルなどへの厳しい制限や監視をのまされたとの思いがあるという。
このため、ロシアはMDについて、新条約の中で、何らかの制限を加えたい考えだ。しかし米国は、MD東欧配備の中止を決定しており、これ以上の譲歩には応じられない。
核拡散防止条約(NPT)は、非保有国に核兵器の保有を禁止する一方、核保有5カ国(米ロ英仏中)に「誠実に核軍縮交渉を行う義務」を課している。オバマ大統領はノーベル平和賞演説で「NPTが米外交の要」と強調した。核不拡散・軍縮を進めるには核兵器の約90%を持つ米ロがまず義務を果たす必要がある。
今年は「核なき世界」へ向け前進できるかどうかの重要な年だ。4月にはオバマ大統領主宰の初の核安全保障サミットが開かれる。5月には国連でNPT再検討会議だ。米国が包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准できるかどうかも焦点。
各国の非難をよそに核開発を進める北朝鮮やイラン。NPT未加盟で事実上の核保有国であるインドやパキスタン、イスラエルをどう枠組みに入れていくのかの問題もある。こうした課題に道筋をつけるためにも、米ロ交渉の進展が待たれる。
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