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社説

年金機構スタート 制度改革には十分な検証を 2010年01月06日

 昨年末で廃止された社会保険庁に代わる非公務員型の特殊法人「日本年金機構」(理事長=紀陸孝[きりくたかし]・元日本経団連専務理事)が、年明けから発足した。

 誰のものか特定できない「宙に浮いた」年金記録5千万件や、厚生年金の算定基礎となる標準報酬月額を改ざんした可能性のある記録108万件も見つかるなど、社保庁のずさんな業務はあきれるばかりだった。国民に老後の不安を募らせただけでなく、時の政権への信頼も著しく損ね、自民党中心の長期政権を終わらせる引き金にもなった。

 それだけに新組織には従来業務の厳しい再点検が求められよう。非公務員となった職員は、過去の“お役所体質”からの脱却も強く意識してほしい。加入者の国民の側に立ち、数十年にわたる負担と給付を確実に遂行することで信頼回復を図らなければならない。

 年金機構は正規職員約1万800人、有期雇用職員も含め約2万3千人体制でスタート。正規職員の大半は社保庁からの移行組だが、同庁職員525人は民間の解雇に当たる「分限免職」となった。

 全国312カ所の年金事務所(旧社会保険事務所)は保険料徴収などの業務に変わりはないが、「電話は3コール以内に」などの「お客さまへのお約束10カ条」に基づき、サービス強化を図るという。社保事務所が管轄していた年金相談センターは、全国社会保険労務士会連合会が運営を受託、「街角の年金相談センター」として熊本市など51カ所で再スタートした。

 機構内に年金記録問題の担当課も新設されたが、来年度の関連予算は概算要求の1779億円から910億円に削られた。民主党の政権公約通りに「2年間の集中的取り組み」でこの問題の正常化が達成されるかどうかは不透明と言える。

 国民の「年金不安」は、大きく二つの要素から成り立っている。一つはむろん年金記録問題であり、残る一つは、「国民皆年金」であるはずの制度そのものが、将来は破綻[はたん]するのではないかという心配だ。

 これに対し、民主党は公約で、基礎年金全額を税で賄う「税方式」を提唱。長妻昭厚生労働相は「(政権の)1期4年の最後の年の通常国会に年金制度改革の関連法案を提出」するとの意向を示している。

 ただし、社会・経済情勢の変化に応じて給付水準を抑制するマクロ経済スライドを導入した2004年の年金改革でも、今後30年は現役世代収入のほぼ5割の給付が維持されることが明らかにされている。

 3分の1から2分の1に引き上げた基礎年金の国庫負担でさえ、来年度予算案は政府内の「埋蔵金」で賄うなど、恒久財源が確定しない状況だ。今のところ財源が明示されていない「税方式」だが、国庫負担が倍増するなら、結局は国民の負担増が避けられないのではないか。

 限られた税収入を年金に注ぎ込めば、医療、介護など他の社会保障分野へのしわ寄せも懸念される。年金をより信頼に足るものにする努力は当然必要だが、国民全体にかかわる制度改革に当たっては、幅広い視点を備えた十分な検証を求めたい。




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