きょうのコラム「時鐘」 2010年1月20日

 「昔の歌を歌うな」という。古い自慢話をいつまでもするなという意味がある。懐メロ歌手には耳の痛い言葉だろう。時代は刻々と変わり過去の姿をとどめない

亡くなった浅川マキさんは昭和40年代の世相を象徴する歌手だった。ラジオの深夜放送から流れる、気だるい声が耳に残る。時が流れ、長い空白期をおいて9年前に金沢で歌ったが、かつてのヒット曲を歌わず肩透かしを食ったというファンがいた

昔の歌を歌わず「今」を歌ったのである。だれしも成功体験が忘れられない。自分の絶頂期を語り続ける。それをしないのが浅川さんの美学であり「その夜限りの、その場限りの、温かい歌があればいい」と本紙に書いている

同じ紙面にミッキー安川さんの訃報もあった。昭和40年代を彩った才能がひとりまた一人と消えていく。一方、スポーツ面には15歳や19歳のスケート選手が若々しく登場している。時代は確実に変わっていく

政界では、戦中生まれの最高実力者が健在で「ゼネコン」などという昔の歌も歌われている。だが、その背後から時代が変わる音が刻々と聞こえて来るのである。