中日新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 科学 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【科学】

小惑星探査機 『はやぶさ』帰還へ

2010年1月19日

写真

 エンジンや姿勢制御装置の故障など数々のトラブルを乗り越え、不死鳥のように飛行を続ける小惑星探査機「はやぶさ」。六月の地球帰還まで半年を切った。満身創痍(そうい)で楽観はできないがゴールが見えてきた。目標とした小惑星の岩石採取ができているかどうかは不明だが、地上では試料カプセルの回収や科学分析などの準備が着々と進んでいる。 (榊原智康)

■ごく微量でも

 「わずかかもしれないが、小惑星イトカワに降り立った時に舞い上がった砂がカプセル内に入っているはず」

 試料の処理を担当する安部正真・宇宙航空研究開発機構准教授は模擬実験などから八〜九割の確率で試料が採取できているとみる。

 小惑星は地球などの惑星が誕生したころの状態をほぼ保ち、岩石の分析から太陽系形成の謎に迫れると期待される。

 はやぶさは、イトカワへの着陸時に金属弾を発射し、飛び散った岩石片をカプセルに回収する計画だった。だが、装置がうまく働かず弾は撃ち出されなかった可能性が高い。

 採取できていても、ごく微量ということは十分考えられる。だが分析技術が向上し「一ミリグラムもあれば十分調べられる」(安部准教授)という。

 宇宙機構の相模原キャンパス(神奈川県相模原市)には昨年三月、五室のクリーンルームなどからなる「惑星物質試料受け入れ設備」が完成。分析を担当する大学などの研究グループに試料を「汚さず、なくさず、分配する」ための中継施設だ。十マイクロメートル(百分の一ミリ)角の粒子もつかめるマニピュレーターを備える。

 「ようやく私たちの出番。バトンをしっかり引き継ぎたい」と安部准教授。試料開封から初期分析までの予行演習をするなどして、はやぶさ到着を待つ。

■「鍋」を探す

 試料が入ったカプセルは直径四十センチ、重さ十七キロ。強化プラスチック製で、ふた付きの中華鍋のような形だ。地球から約十万キロの地点で機体から分離されて秒速十二キロで大気圏に突入。高度十キロでパラシュートが開き、オーストラリアの砂漠に落下する。

 カプセルが出す電波を地上四カ所のアンテナでとらえて着地点を割り出し、回収チームがヘリで駆け付ける。機体本体はカプセルに続いて大気圏で燃え尽きて役目を終える。

 昨年末には鹿児島県で気球を飛ばし、着地点割り出しの練習をした。山田哲哉・宇宙機構准教授は「かなりの精度で着地点を割り出せた。回収に不安はない」と自信を見せる。

■予断許さず

 ここまでの道のりはトラブル続きだった。

 打ち上げ直後、四台のイオンエンジンのうち一台が不安定になり停止。その後も三基の姿勢制御装置のうち二基が故障した。

 ようやくたどり着いたイトカワでは着陸後に補助エンジンで燃料漏れ。機体の姿勢が狂って通信が途絶えた。

 通信は約七週間後に復旧し「奇跡の復活」といわれたが、このトラブルのため二〇〇七年六月だった帰還予定は三年延びた。

 復路も無事には済まなかった。通信復活の後まもなく二台目のイオンエンジンが故障。昨年十一月にさらに一台。使えるのは劣化した一台だけとなった。

 このピンチも、運用チームが万一に備えて設けていた回線が救った。エンジンは「イオン源」と「中和器」が同時に動くことが必要だ。故障したエンジン二台のなかで、無事だったイオン源と中和器を遠隔操作でつないだところ、一台分の推進力が得られた。

 エンジンはその後も順調に稼働。十四日現在、地球まで約五千九百万キロに近づいた。ただ、残る一基の姿勢制御装置はいつ不具合が出てもおかしくない状態で予断を許さない。

 「昨年十一月に再び動いた時点で帰還は五分五分とみていた。今は六割と少し高まった」と、はやぶさプロジェクト責任者の川口淳一郎・宇宙機構教授。「動いているだけでも奇跡。何とか戻ってきてほしい」

<記者のつぶやき> 「帰還のためにはあらゆる努力を惜しまない」と川口教授。そこには神頼みも入る。はやぶさの運用室には東京の「飛不動」寺院のお守りのほか、中和(ちゅうわ)器の無事を祈って岡山の「中和(ちゅうか)神社」のお札も。御利益がありますように−。

 

この記事を印刷する

広告
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ