● 在外研修の機会を得て

平成２１年３月から７月までの約５か月間，ベルギーの首都ブリュッセル所在の，欧州連合（ＥＵ）の一機関である欧州不正対策局（ＯＬＡＦ）において，研修する機会を与えられました。ＯＬＡＦとは，ＥＵの財政に関する種々の不正を取り締まる機関であり，例えば，密輸・贋作輸入による関税ほ脱などといったＥＵの収入面に関する不正や，発展途上国への開発援助金の流用などといった支出面に関する不正について，関係機関と共に捜査に当たる機関です。

ＥＵの一機関ですので，欧州２７の加盟国出身の法曹関係者等が集まっており，ＯＬＡＦ内では，英語はもちろん，フランス語，ドイツ語，イタリア語等々，あらゆる言語が飛び交っています。そのような中，私はたった１人の日本人，いやアジア人。研修初日，ＥＵ日本政府代表部に出向中の先輩検事と一緒に初めてＯＬＡＦを訪れ，「じゃあ，なんとかサバイブしてくれ」と言われて別れた時の心細さは，きっと一生忘れることはないでしょう。

しかしながら，いざ研修が始まってみると，言葉の問題は最後まで解消しきれなかったものの，ＯＬＡＦの仲間は皆本当に親切で，充実した研修を送ることができました。加盟国や第三国の関係機関と協力しながら，国境を越えた捜査を展開するＯＬＡＦの手法は，国際化が進む犯罪への対応を求められている我が国にとっても参考になるものです。また，日本の検察制度についてプレゼンを行うなどしてＯＬＡＦの仲間と意見交換を行う中で，世界における我が国の司法制度の位置付けを学ぶこともできました。

検事としての仕事に憧れ，任官以来，捜査・公判に無我夢中で従事し，一定の充実感・達成感を感じていた私にとって，在外研究を命じられた当初は，正直あまり魅力を感じませんでした。しかしながら，実際に海外で生活・研修をしてみると，今までの自分の視野・思考の狭さ・硬さを思い知らされました。そして何より，今後一生付き合いが続くであろうＯＬＡＦの仲間にも出会えました。私にとって在外研究は，今後検事として仕事をしていく上で大きな糧になるものと確信しています。