熱闘の末に奪った勝利は格別だった。まるで優勝を決めたように、ナインが歓声をあげながら抱き合って喜ぶ。主将の後藤佑一朗内野手(3年)は破顔一笑だ。
「勝ててよかったです。慶応を倒すのが目標でした」
本塁打で同点に追いつかれた四回、土屋恵三郎監督は二死二塁でエース左腕・能間隆彰(3年)から背番号10の船本一樹(3年)にスイッチ。さい配がピタリとはまり、救援の横手投げ右腕が九回まで2安打無失点と好投した。打線は七回二死二塁から石田大祐外野手(3年)の右前適時打で勝ち越し、八回一死三塁で途中出場の坂田海都内野手(3年)がスクイズ成功。慶応のエース白村から計3点を奪って試合を決めた。
6月13日に組み合わせが決まってから約1カ月。2年前の夏に敗れた因縁の相手との対戦が決まると、「打倒慶応」にチームは一丸となった。ともに文武両道。「ライバルだし、勝てれば波にのれる」と後藤。白村対策として160キロに設定したマシンを打ち込み、野球部員全員が暮らす「清風寮」では今春のセンバツ出場時の慶応のビデオを繰り返し見て研究してきた。
今春の県大会で3回戦敗退後、総監督を務めていた土屋監督が1年半ぶりに現場復帰。25年の監督生活で春夏通算10度母校を甲子園に導いた名将がチームを立て直した。「挑戦する覚悟です。3年生を甲子園に連れて行きたい」。10年ぶりの夏の聖地へ。激戦区神奈川から、ノーシードの名門校が陸の王者を破って名乗りを上げた。(伊藤昇)