美しい放物線を描いた打球が、右中間の芝生席に吸い込まれていく。
「ハマのゴジラ」のバットがついに火を噴いた。四回、筒香に神奈川大会2戦目で待望の一発が飛び出した。先制の一撃は、場外まであとわずかの推定飛距離130メートルの特大弾。詰めかけた7300人の観衆もため息をつくしかなかった。
「打った瞬間入ると分かりました。1本出てホッとしています」
今夏は2戦で7打数4安打と絶好調だが、実は夏の地方大会は大の苦手。過去2年は打率.268で、本塁打もわずか1本のみ。昨夏の南神奈川大会だけでみれば、打率.167とまるで奮わなかった。今年5月の宮崎遠征でも、13打数1安打と大不振。大半がどん詰まりだった打撃に、見かねた小倉清一郎部長が一喝した。
「プロで一番恥ずかしいのがどん詰まりだぞ! そんなんでプロに行けるか!」
その厳しい言葉に刺激を受けた筒香は、改革を断行。前に突っ込みがちだった打撃は、ティー打撃でわざと打てないボールを放らせ「見極めて打たない」練習を繰り返すことで、待って軸の回転で振り切る本来の打撃が復活。詰まる打球を劇的に改善させた。
またメンタル面では「気持ちが高まる」と、試合前にあこがれの松坂大輔(レッドソックス)や涌井秀章(西武)らOBが出場した甲子園のビデオを寮で見るのが習慣化。イメージトレーニングすることで、戦いに向かう気持ちも準備した。
渡辺元智監督は、ついに出た豪快な一発に「マークされているなかでよく打った。まわりの選手にもいい刺激を与えている」と絶賛した。
「苦手な夏」を克服。主砲のバットで、2年連続の聖地へまた一歩近づいた。(伊藤昇)