同時期に人気を二分していた松田聖子は、
都会的で正しい恋愛一直線というイメージで売っていたが、
方や明菜の方は少し不良がかって&やや寂しげで、
都内と言えども会話語尾に「だべ」を付ける心はイナカ者の僕らを、
ときめかせていたものである。
高3になっても全然勉強をしないで麻雀ばかりしていた僕らは、
その日も教室の後ろで「アイドルで彼女にするとしたら誰か」という下らない話をしていた。
「小泉今日子」「早見優」だの名前を挙げたところで、
付き合える訳は無いんだが(ちなみにワタシは原田知世)、
クロカワという奴がいきなり「中森明菜の妹がウチに遊びに来たことがある」と言い出したんである。
このクロカワという男は良い奴なんだが、
人が言ったギャグを毎回オウム返しするウザったいトコロがあって、
半分笑いのタネにされている面もあった。
僕ら「クロカワいい加減なこと言うんじゃねえよ」
クロ「ホントだよ。オレの妹と明穂(明菜の妹)は友達だったんだよ」
僕ら「ウソこくんじゃねえよ!証拠あんのかよ」
クロ「明菜の家を知ってるよ。引っ越してなきゃ今もいるはずだよ」
僕ら「ホントかよ!!おめえウソだったらぶっ殺すぞ!」
何とも物騒な話であるが、
人気絶頂のアイドルが僕らの身近にいることが到底信じられなかったんである。
その日の放課後は麻雀を取りやめて、
「行くべ行くべ」と中型と原チャリに分乗してキヨセの中森家に向かった。
実際に行くことになると現実味が沸いてきて
「いたらメットにサインしてもらおう」とか「下着を盗むか」と言った話で盛り上がってきた。
しかし先導のクロカワが、同じ道を何度も走る。
わざとらしく首を振っているのが、後続の僕らから見える。
これはどうやらオカシイと思い始めた時クロカワが止まった。
クロ「あそこだよ明菜の家は」
普通の住宅街にある2階建ての家。
知られることを恐れてか表札は出ていない。
しかし、
元は白壁だったと思われる一面はスプレーでメチャクチャ。
「〜参上」とか「尊王愛国〜」とか、例の東京都マークとかが何重にも書かれていて
とても人間の住める環境では無い。
これはスゴい・・・
僕らはバイクから降りずに無言で通り過ぎた。
クロ「だからホントだって言ったろ」
その日は気分が悪くて、ファミレスには寄らず皆そのまま帰った。
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中森明菜には薄幸のイメージがつきまとう。
今はどうか知らんが、美貌と才能に恵まれたのにシアワセに縁遠い。
個人的には興味は無いが、
写真週刊誌に撮られてた頃も到底シアワセそうには見えなかった。
♪砂のう〜え 刻〜むステェップ ほーんの一人遊び
デビュー曲でありながら、個人的にはBest Trackです。