昨年末の米デルタ機爆破テロ未遂事件について、米ホワイトハウスはテロにつながる情報を生かせなかったなどとする報告書を公表した。虎視眈々(たんたん)とすきをうかがうテロの脅威と、それに対する備えのもろさが浮き彫りになった形だ。
事件はオランダのアムステルダムから米国のデトロイトに向かう機内で起きた。着陸直前に乗客の男が爆破を図ったが失敗し、間一髪で事なきを得た。粉末状の高性能爆薬を詰めた袋を下着に縫い付けて検査をくぐり抜けたという。もし計画通りに爆発していたらと思うとぞっとする。
男はナイジェリア人のアブドゥルムタラブ被告で、殺人未遂などの罪で起訴された。事件後、イエメンの国際テロ組織アルカイダ系勢力が犯行声明を出した。被告はイエメンでこの組織から訓練を受け、爆発物を渡されたとみられている。
被告については、過激な宗教観を心配した父親が米大使館に通報、米情報機関はテロ容疑者リストに載せていた。それなのに、なぜやすやすと検査をすり抜けられたのか。
報告書は事件を未然に防げなかった原因として、複数の米情報機関がテロにつながる情報を得ながら、総合的な関連づけに失敗して事前に察知できなかったと指摘した。さらに被告の名前のつづりが間違っていたため国務省はビザを所持していないと認識。同被告を搭乗禁止リストに登録する審査も不十分だったことなどを挙げた。
基本的なミスと言えよう。せっかくの情報も生かされなければ意味がない。世界を震撼(しんかん)させた2001年の米中枢同時テロ以後、情報収集や保安検査は一段と強化されたが、時間の経過が警戒心に緩みを生じさせたのではないか。国際的な連携を強め、テロ監視体制の徹底した見直しと再構築を求めたい。
テロの撲滅には個々の犯行への対応だけでなく、根源に迫る取り組みが必要だ。アルカイダ系勢力が拠点を置くイエメンは貧困層が多く、政府への不満や反米感情も強い。その不安定さにつけ込んで、アルカイダ系勢力が拡大を図っている。
イエメン政府は、米国の側面支援でアルカイダ系勢力の掃討作戦を展開中だが、国民の不満が改善されない限り、若者をアルカイダに走らせかねないとの懸念がある。テロの拡大を阻止するためにも、国際社会は市民生活や人権の向上などイエメンの安定化を積極的に支援していかなければならない。