観光庁の2代目長官に今月、溝畑宏氏が就任した。観光立国の実現に向けて人心一新を図る狙いとみられ、前原誠司国土交通相は2010年を「観光行政の有言実行の年」と強調した。Jリーグのクラブチーム社長を務めた溝畑氏の、民間経験を生かした手腕に期待したい。
政府は昨年末に発表した成長戦略の基本方針で、戦略分野の1つに「観光」を掲げた。訪日外国人旅行者を20年までに約3倍の2500万人に引き上げ、56万人の雇用創出につなげる。6月をめどにまとめる工程表で実現への道筋を示す予定だ。
外国人旅行者7人が落とすお金は、その地域の住民1人の年間消費額に匹敵するという。人口減少が進んだとしても、旅行者が増えれば消費を支えられると期待されている。
外国人旅行者は世界的な不況のあおりで急減しており、09年は700万人程度にとどまる見込みだ。だが中長期的にみれば、中国などアジア各国の経済成長を背景に旅行需要が伸びるのは間違いない。着実に旅行客を日本に呼び込みたい。
問題なのは、現状では旅行者の7割が東京、大阪など大都市圏に集中し、地方への波及効果が乏しいことだ。08年の外国人宿泊者のうち、中国地方が占める割合は1・7%、四国地方は0・5%にとどまっている。
瀬戸内海という比類のない自然景観や歴史遺産、食文化など中四国地方には外国人を引きつける資源がある。地域の魅力をもう一度見直し、官民の創意工夫で海外への情報発信を一段と強化したい。
独立行政法人国際観光振興機構の調査では、大都市圏に比べて地方での案内板の外国語表示や観光案内所の不十分さを訴える外国人の声が目立っている。受け入れ体制の整備も急務だ。