年金不信を増幅させた社会保険庁が廃止され、非公務員型の特殊法人「日本年金機構」が発足した。不祥事にまみれた社保庁のお役所体質からの脱却を目指すが、機構を取り巻く課題は多く試練の船出といえよう。
社保庁では2004年以降、職員による政治家らの年金記録のぞき見や、約5千万件に上る「宙に浮いた年金記録」発覚など不祥事が相次ぎ、07年6月成立の社保庁改革関連法で“解体”が決まった。
正規職員1万800人の大半は社保庁からの移行組だが、懲戒処分歴のある職員は採用から外した。約1100人は民間出身だ。全国312カ所の社会保険事務所は「年金事務所」と改称された。
期待されるのは職員の意識改革だろう。「電話は3コール以内に出ます」など接客ルール「10カ条」を作成し、サービス向上を図る。不祥事で地に落ちた信頼が回復できなければ、単なる「看板の掛け替え」との批判は免れまい。
新組織に重くのしかかるのは、対応が急がれる記録問題への取り組みだ。ただ、来年度の関連予算は概算要求の半額、910億円に圧縮された。長妻昭厚生労働相はコンピューターと紙台帳の記録を約4年間で全件照合すると明言していただけに、作業への影響が気掛かりだ。
さらに懸念されるのが年金機構の将来像だ。長妻氏は、機構と国税庁を統合し、保険料と税を一体徴収する「歳入庁」構想を描く。機構はそれまでの「つなぎ」組織と位置付けられるが、統合への道筋は見えない。
08年度に過去最低の62・1%まで落ち込んだ国民年金保険料の納付率向上も課題として残る。組織改革を機に、少子高齢社会に対応した年金制度抜本改革の議論を急ぐ必要があろう。