藤井裕久財務相が過労による体調不良を理由に辞任した。鳩山政権が早期成立に全力を挙げるとする2009年度第2次補正予算案と10年度予算案を審議する通常国会召集が迫る。後任は菅直人副総理が起用されたが、急な交代で予算審議が混乱すれば、鳩山政権にとって致命的な打撃となりかねない。
「予算編成は相当な重圧。しんどかったのは事実だ」。藤井氏は、昨年12月28日から検査入院していたが、一時的に退院した30日の閣議後記者会見で体調不良を語っていた。通常国会が開幕すれば、財務相が予算審議の前面に立つうえ、1日7時間ほどの長い審議時間をこなす必要もある。首相への辞意伝達は、体力に自信が持てなくなったからだろう。
野党は、通常国会で鳩山政権が初めて編成した予算案を厳しく追及する構えだ。補正予算案は、7兆2千億円規模の追加経済対策を盛り込んでいるが、内容は新味に乏しく、景気下支え効果は見通せない。10年度予算案も一般会計総額を92兆円余りと過去最大に膨らませたものの、日本経済を苦しめるデフレを克服できるかどうかは不透明だ。政府は、子ども手当を中心とする家計支援策が個人消費を刺激して内需拡大につながるとしている。しかし、不況が長引き、子育て世帯が給付を貯蓄に回せば効果は薄くなる。
最大の問題はマニフェスト(政権公約)に掲げたガソリンなどの暫定税率廃止を見送るなど、先の衆院選で民主党が掲げた国民への約束が破られたことだ。自民党は予算案に対し「ばらまき」「公約違反」と批判する。予算審議で野党が攻める材料には事欠かない。
藤井氏は77歳と高齢で、衆院選前には政界引退を表明していた。だが、当時民主党代表だった鳩山由紀夫首相から「政権交代後に必要な人」と出馬を要請されて撤回し、比例代表単独候補で当選した。細川、羽田両連立内閣で蔵相を歴任した経済・財政通として知られる。首相は、政権発足後、知恵袋として度々指南を仰いでいたという。
鳩山政権を支える重要閣僚の藤井氏辞任は、首相の指導力発揮を困難にする可能性があろう。政権運営に暗雲が漂う。4日の年頭記者会見で首相は内閣改造に関し「閣僚がころころ替われば、世界の中で顔が見えなくなる」と言っていたのに、経済に強い藤井氏が閣内からいなくなれば、政権の財政運営にも不安が募る。首相の危機対応力が問われる。