社説
震災16年目/「復興文化」を発信したい
あの瞬間に間に合うようにと、人々は早足に会場を目指した。
阪神・淡路大震災が起きた午前5時46分。夜明け前のまちは、15年前のように寒かった。きのう、神戸・三宮の東遊園地などで追悼の集まりが開かれた。
日曜日と重なったとはいえ、例年に比べて参加者は多かった。とりわけ、家族連れの姿が目立ち、震災を知らない子どもたちがろうそくの明かりに手を合わせた。
区画整理など行政の主要な復興事業は完了したか、終わりが近づいた。そんな15年だからこそ、伝えることの大切さを感じ、足を運んだ人が多かったのではないか。
神戸市の場合、震災後の出生、市外からの転入が市民の36%に達する。あの揺れを経験していない住民が増えた。
もちろん、震災は過去のものではなく、今も多くの課題が残る。
震災当時の兵庫県知事、貝原俊民氏は、目指した創造的復興が十分には進んでいないとし、「復興住宅は最初こそ喜んでもらえたが、“孤独死”などが起きた。街並みが復興しても商店街などの活気がない」と15年を振り返る。
高齢化や格差などを背景とする問題は全国に共通する。「被災地で一足先に起きたが、それをどう克服するかを提言していく責任もあるのではないか」と話す。
復興住宅では、常駐型の見守り拠点「高齢者自立支援ひろば」が設けられるなど、支援活動が行われてきた。しかし、入居者の高齢化率は48%にもなる。住民同士の支え合いは難しく、継続した支援が必要だ。
まちのにぎわいづくりは、不況の影響もあり、遅れたままだ。「震災障害者」はその人数さえ分かっておらず、15年がたち、ようやく行政が実態把握に動きだした。
県は2010年度以降も復興のプログラムをつくる。現状を見れば当然だろう。
課題の克服には市民の役割が大きいことも確かだ。震災の年は「ボランティア元年」と呼ばれ、市民活動が盛り上がる契機となった。高齢社会の課題がより厳しく迫る中で、市民が主体的に動き、地域社会全体で解決に取り組む必要がある。
市民、地域、行政が一体となって、新しい共生のまちづくりに踏み出す。それは、復興の取り組みを文化にまで高めることにつながるはずだ。
祈りと誓いに包まれ、被災地は16年目に入った。5年後、10年後、さらにその先を見据え、復興の文化を発信していきたい。
(2010/01/18 09:52)
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