社説
震災15年伝える生かす(4)命を守る/あの日の誓いを新たにしたい
都市を襲った震災で多くの教訓が残された=神戸市内 |
「長いようであっという間の15年でした。私たちは何を経験し、どこへ向かおうとしているのでしょう」「きれいな街並みが幸せなのかどうか。もう震災はいやです」
阪神・淡路大震災の激甚被災地、神戸市長田区を歩く「こうべあいウォーク」の参加者は、そんな感想をゴールで記した。
あのとき、焼け野原となった地域は今、新しい住宅が目立つ。傷跡は見えにくくなったが、体験を風化させないとの住民の思いは、まちの各所で感じられる。
復興土地区画整理事業が最終段階に入った新長田駅北地区。住宅や商店がひしめいていた街区は、1ヘクタールの水笠通公園に変わった。ここに住民らは昨春、幅3メートルもある石碑「震災復興の碑」を置いた。火災に襲われた地域だけに、公園にはせせらぎが流れ、100トンの防火水槽も設けられた。
御蔵北公園には「鎮魂」のモニュメントがある。120人を超えるこの地区の犠牲者がどこで亡くなったか、天井から差し込む光で示す工夫がされている。
6434人。あまりにも多くの命が失われたことを伝え続けねばならない。
被害前提に軽減策
犠牲者数は伊勢湾台風を上回り、戦後最悪の災害だ。しかし、震災前、防災の専門家の間でも「地震による大量死は過去のもの」との思い込みさえあったという。
家屋倒壊による多数の死者は、1948年の福井地震にまでさかのぼらないと出ていない。地震研究でも、木造住宅の耐震性はあまり目が向けられていなかった。命を守る取り組みは弱かった。
そんな、この国の都市を震度7の激震が襲った。以後、主な地震だけでも、鳥取県西部▽芸予▽新潟県中越▽福岡県西方沖▽能登半島▽新潟県中越沖▽岩手・宮城内陸-が起きた。地震の活動期とされる。
さらに、2004年の台風23号、昨年の兵庫県西、北部豪雨のほか、ゲリラ豪雨などの被害も目立つ。
備えは15年でどこまで進んだのだろう。
大きな変化は「減災」の考え方が強くなったことだ。防災が被害ゼロを目標とするのに対し、減災は被害をできるだけ少なくすることを目指す。
かつて行政には、被害発生を前提にした軽減策を進めることには抵抗があった。それが震災で一変した。
政府が初めて減災の数値目標を設けたのは05年の地震防災戦略だった。想定死者数や経済被害を10年間で半減させる目標を掲げた。東南海・南海地震の場合、1万7800人の死者数を9100人に減らす。
半減させても大変な被害だ。震災前であれば、こんな目標設定はあり得なかった。現実的な対応への転換といえる。
昨年、中央防災会議は3年間の達成状況を発表した。津波による死亡への対策は被害予測のハザードマップづくりや避難訓練などで向上したが、揺れによる死亡への対策は住宅耐震化や家具固定などが進まず、達成率21%。目標の30%には届かない。
自助・共助・公助
命を守る取り組みはまだまだ不十分だ。
震災直後の犠牲者の約8割は住宅の倒壊が原因だった。住宅の耐震化は最大の教訓のはずだが、それも進んでいない。
災害への備えは、自分の身は自分で守る「自助」、地域の助け合いなどの「共助」、行政による「公助」の連携が大事だ。
行政に頼るだけでなく、自ら住まいの安全性を高め、避難方法なども考えておかねばならない。震災直後、がれきの中からの救助は8割以上が家族や近所の人々の手によるとされ、緊急時には地域の役割が大きいことも分かった。
「自助」「共助」の大切さを知ったが、それらは「公助」がしっかりしていなければ成り立たないことも確かだ。安全は行政の基本的な役割である。
震災で都市のもろさが浮かび上がった。住宅は揺れに弱く、密集市街地で被害は広がった。過酷な避難生活で命を落とす人もいた。災害で助かったはずの命が失われた。こんな悲劇は繰り返したくない。
この15年で、行政の初動対応や広域連携、地域の自主防災組織など改善された部分はあるが、課題を見つめ直し、さらに防災力を高めていく努力が必要だ。
減災戦略で犠牲者の数を半減させることは大切だが、それは最終目標ではなく、限りなくゼロに近づけねばならない。軽減の対策に終わりはない。
被災地で鎮魂の祈りがささげられるきょう、震災の教訓の原点である「命を守る」をあらためて誓い合いたい。
(2010/01/17 11:22)
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