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社説

震災15年伝える生かす(3)災害時の医療/場数を重ね足腰の強いものに 

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災害医療チームの活躍の場は海外にも広がる=中国・四川省(共同)

 阪神・淡路大震災では多くの病院が被災し、十分な医療を提供できなかった。その苦い経験が教訓となり、災害時の医療に真剣に目が向くようになった。

 震災から10年後に起きた尼崎JR脱線事故の対応に、蓄積の一端が示された。

 死者107人、負傷者550人を超す惨事だった。20台のドクターカーが駆けつけ、ヘリによる負傷者の搬送が行われた。医療処置を施しながら、車両に閉じ込められた人を救出する場面もあった。

 負傷者をヘリで搬送し、適切な治療を行うという発想は、震災の教訓である。がれきの下でレスキューと並行して医療処置を講じることも、そうだ。

 こうした現場での一つ一つの対応が、医療関係者の関心を呼び起こし、災害医療の整備を加速させたことは間違いない。

 取り組みは続く。災害拠点病院と、災害に即応する医療支援チーム(DMAT)の整備はその柱だ。災害時の拠点となる指定病院は全国で582に上る。

 二つの「D」を支えに

 DMATは、拠点病院の医師、看護師、支援要員の5人一組で編成する。訓練は年に10回。東西2カ所の拠点センターで行われ、西日本は兵庫県災害医療センターが指定施設になっている。

 災害では骨折、挫傷などの外傷や呼吸障害といった急性期の医療に対する必要性が高まる。DMATは発生直後にチームとして当たることを想定し、食料や宿泊用テントなどを自前で準備する。

 最初の本格的な出動は、2007年7月の新潟県中越沖地震だった。新潟県が緊急要請を出したのは近隣6県だが、全国から40チームが集まり、兵庫県からも出動した。

 昨年夏の県西、北部豪雨では、播磨地区から複数の拠点病院のDMATが現地に入っている。他府県、県内を問わず、災害が起きればすぐに対処するというのが持ち味だ。場数を重ね、足腰の強い医療支援チームに育ってほしい。

 DMATと並んで最近、もう一つ注目を集めるものに遺族支援がある。

 脱線事故では救命の見込みがないと判断され、現場で「黒タッグ」をつけられた人がいた。兵庫医大の吉永和正教授は、一刻を争う「赤タッグ」の重傷者がスムーズに搬送されたことに安堵(あんど)する一方、黒タッグをつけられた人や遺族への対応がそれで終わらないことに思いを新たにした。

 最期の状況が分からないために遺族は苦しむ。例えば、死体検案書の「座滅症候群」という記載。圧迫から解放されて起きる病態と用語から受ける印象が一致せず、思い悩む。死亡時刻がみんな同じであることに「なぜ」と疑問を抱いた人もいる。専門家が適切に助言すれば済む問題もある。

 これまで、監察医と遺族が話をする場がなかった。吉永教授は、医師や看護師ら多様な人材が参加することによって、遺族の心情に沿った、よりきめ細かな応対が可能になると考えている。

 米国にはそのための専門チーム「DMORT」があり、政府の緊急事態管理庁(FEMA)にDMATと共に位置づけられている。吉永教授が目指すのは日本版だ。

 自然災害でも大事故でも、通常の医療とは異なる対応が求められる。現場から丁寧に課題を集め、誠実に向き合っていくことで新しい展開が見えてくる。未曾有の災害を経験した兵庫の務めではないか。

 課題をどう克服する

 ただ、DMAT一つとっても課題は多い。厚生労働省は拠点病院ごとに複数の設置を目指すが、医療環境が厳しい中、研修を負担に思う施設が少なくない。業務命令で仕方なく、という声もある。災害はいつ、どこで起きるか分からない。拠点病院はその際、中心となる施設だ。研修の重要性を啓発し、やる気のある人材は、少人数でも参加できる運用面の工夫があっていい。

 広域搬送と国レベルの組織の連携・協力という、もっと厄介な問題もある。大震災では、被災地外へ搬送し、十分な医療を施していれば助かった患者は約500人という推計もある。東海、東南海・南海、首都直下型地震など、政府が広域搬送を想定する災害で、同じ失敗は許されない。

 国の対策マニュアルでは、被災地の拠点病院から搬送拠点に患者を集め、治療の優先度を判断(トリアージ)して被災地の外へ運び出す。その際、自衛隊や消防庁などとの連携協力や訓練が欠かせないが、手つかずになっていることが多い。

 到達点はまだ先だ。経験を積み上げ、できることから乗り越えていきたい。

(2010/01/16 10:29)

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