社説
震災15年伝える生かす(1)復興まちづくり/この経験を地域力の向上に
寒さは厳しいが、広い公園には子どもたちの歓声が響いていた。
阪神・淡路大震災の復興土地区画整理事業が進められた神戸市灘区の六甲道駅北地区。事業が完了して4年近くになる。
公園には「風の家」と呼ばれる集会所がある。六甲山と海からの風を呼び込もうと開放的なデザインになった。住民が管理・運営する地域の活動拠点だ。まちづくりの会合、親子の集いなどに利用され、コンサートなども独自に開いている。
ハード面の事業が終わっても、ソフト面のまちづくりの取り組みが続く。
八つの協議会で構成する同地区まちづくり連合協議会は昨年末の会合で、「1・17」行事などを話し合った。震災後に始まった会合は203回目になる。
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復興への道のりは険しかった。
区画整理は、震災からわずか2カ月後に都市計画決定され、「性急すぎる」と反発の声が上がった。このため、兵庫県は計画の骨格だけを決め、詳細は住民の意見を反映させる「二段階方式」を採用した。
現在、行政主導の事業18地区のうち、残るのは新長田駅北地区だけとなった。行政の決めた枠組みが前提だったが、住民参加のまちづくりが各地で進められてきた。
六甲道駅北地区でも、行政への反発に加え、住民同士の意見の食い違いもあった。それでも粘り強く話し合うことで地域がまとまったという。事業は11年かかったが、住民の提案が随所に生かされた。
例えば「ロッキーハナミズキ通り」。曲がりくねっていて通常の区画整理ではあり得ない道路だが、震災前の街並みや道のイメージを残した。歩道をたどると、避難所となる小学校や公園に行き着く。地区内には防火機能を持つ「せせらぎ」もある。
事業完成後も、公園やせせらぎの清掃、もちつき大会などで交流を深める。
「道路が広くなり、ご近所の距離は少し遠くなったが、まち全体のつながりは強くなった」と連合協議会の広瀬正幸さん(65)は話す。「まち中、みんながお隣さん-を目標にしたい」
一変したまちの表情
だが、被災地全体では、まちづくり協議会の活動は低調になってきた。区画整理18地区のうち、10地区で住民組織が解散または休止した。事業をめぐる住民間の意見対立で、しこりが残る地域もある。
震災後に高まった住民参加の機運を途絶えさせない手だてを考えたい。
街並みは整備されたが、住民の満足感が必ずしも高くない点も気がかりだ。
新長田駅北など3地区を対象に、神戸新聞社などが実施したアンケートでは、震災前から暮らす住民の約4割が事業について「満足」と評価したが、「不満」も3割近くに上った。「災害に強いまちになった」ことを評価する一方で、人付き合いの減少や事業の長期化への不満が目立つ。
区画整理によって、とりわけ下町は大きく表情を変えた。路地が広い道路になり、飲食店などの商店、町工場が減った。
土地の権利者が対象のため、借家人は地域にとどまることが難しい。商工業者は、事業の長期化で地区外に移転し、そこで営業することも少なくない。そうした人々がまちを離れると活気は失われる。
復興の区画整理では、私有地を提供する「減歩」の割合を低くするなどの配慮はあった。しかし、災害時に適用するには制度そのものに限界があったのではないか。まちの活力再生につながる仕組みが要る。
平時から取り組みを
復興まちづくりで注目したいのは、専門家らによる「仮設市街地」の提案だ。東京都の復興マニュアルにも盛り込まれた。地域の近くに仮設の住宅や事業所、商店を設けた「小さなまち」をつくり、コミュニティーの喪失を防ぎながら復興を進める。
困難が伴う復興を事前に考えようとの取り組みの中で検討された。東京都の各区では、住民が参加して復興模擬訓練を行い、仮設市街地についても議論している。実現には法制度上の問題もあるが、阪神・淡路の教訓から学び、まちづくりのあり方を平時から考えていく必要がある。
震災後、被災地の住民は議論を重ね、地域の再生に知恵を絞った。その苦労は並大抵ではない。将来を見つめ、合意形成を図ってきたことは、大きな財産だ。
今、地域には防災だけでなく、福祉や環境、景観など、多くの課題がある。住民主体で取り組んだ15年の経験を、さらに地域力を高めることに生かしたい。
(2010/01/14 10:06)
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