社説
先端工場群/集積の力を関西再生に生かせ
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景気は依然として低迷しているが、今年、関西では、薄型テレビ用パネルとエコを支える電池の両分野で、中核的な新工場が次々と動きだす。世界にも類をみない一大集積地の形が、くっきりと浮かび上がる年となる。
世界同時不況から脱却するため、先進各国は「グリーン・ニューディール」と銘打って、環境・エネルギー分野で需要を創造する戦略を加速させている。そこで脚光を浴びるのが、太陽光発電やエコカーに欠かせない電池産業や、省エネになる薄型テレビ産業である。両分野に強い関西は、この追い風を最大限に生かすことが大切だ。巨大工場に集まる人材や技術を生かして地域経済を再生する手だてを考えたい。
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「暮らしという身近なところから、グリーン革命の先導役を果たす」。パナソニックの大坪文雄社長は先週末の会見で、次代の経営の柱を環境エネルギー事業とする考えを明確に打ち出した。
昨年末に子会社化した三洋電機の電池事業を発展させ、太陽電池や充電池などで世界シェアを高めようとの計画を練る。
■新工場のラッシュ
今、関西を俯瞰(ふかん)すると、パナソニック、三洋電機、シャープ、京セラ、カネカソーラーテック、ジーエス・ユアサなど大手各社の電池工場の驚くほどの集積が分かる。
とりわけ今年は開設ラッシュだ。
太陽電池ではシャープが堺市に新工場を開設し、カネカソーラーテックが豊岡市の工場で生産を増強する。一方、リチウムイオン電池では、三洋電機が加西市に、パナソニックが大阪市に、ジーエス・ユアサが京都府福知山市に、それぞれ新工場を立ち上げる。
景気の底割れが懸念される日本にあって、関西の勢いには目を見張るものがある。太陽電池の生産では国内シェア7割、リチウムイオン電池では8割を握る。
その理由について、日本政策投資銀行は電気機械、化学、繊維、印刷などの関連産業が幅広く集積している点を挙げる。電池産業を引き続き関西の「強み」にしていくには「需要の創出と確保が鍵」という。
化石燃料依存の限界がはっきりした今、再生可能な自然エネルギーの活用は最重要課題だ。関西でこそ太陽電池などを積極的に普及させたい。
関西電力は、シャープの工場近くで太陽光発電所を建設し、11月に運転を始める。太陽電池の家庭への導入、エコカーの推進などを含め、エネルギーの「地産地消」になれば大きな前進である。
■地元への波及は?
関西は、薄型テレビ産業の巨大生産地である。昨年末、パナソニックは尼崎臨海部に建設したプラズマテレビ用パネル第3工場の完工式を行った。隣接する既存の2工場と合わせ、世界最大規模の生産体制が整った。昨年10月には堺市でシャープが液晶パネル工場を稼働させている。
今年7月に姫路でパナソニックの液晶パネル工場が稼働すれば、姫路、尼崎、堺の薄型テレビ3拠点がそろう。すべて稼働すれば、世界の薄型テレビ需要の3割に達するという試算がある。
電池やパネルなどの大工場の進出で期待されるのが、地元への波及効果である。行政は誘致にあたって多額の助成金を企業に与えている。例えば、兵庫県は尼崎のパナソニックの工場に対して、設備投資額の3%程度を補助している。私企業に公金を投入するのは、雇用や税収などで地域経済を支える役割を重視してのことだろう。
民間シンクタンクの関西社会経済研究所は、ベイエリアで進む薄型テレビなど大型投資の経済効果が近畿全体で2兆2800億円に上るとはじいている。
こうした予測は期待値を込めて大きな数字になるきらいがある。地元では、雇用は自社の他工場から移転するので採用は思ったほど伸びず、また、地元中小企業への受発注の機会も少ないという声がある。
巨額の補助金で誘致した以上、費用対効果をきちんと市民に示すことが必要ではないか。地元自治体は雇用や税収への影響を明らかにするとともに、中小企業への技術移転や産学連携などの効果も調査し、十分な波及が出るよう経済界と連携して、企業を指導すべきだろう。
日本全体で求められているのは、新しい成長産業である。幸い、関西では電池とパネルという二つのエンジンが本格的に動きだそうとしている。この勢いを地域再生に結びつける方策が、今まで以上に求められている。
(2010/01/11 10:04)
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