社説
武庫川ダム/治水対策を考える契機に
西宮、宝塚市境の武庫川渓谷に計画されている武庫川ダムの建設が回避される見通しとなった。
兵庫県は武庫川の総合治水対策として、ダムよりも堤防強化などを優先させる方針を固めた。県はダム建設の検討は続けるとし、計画を撤回したわけではないが、公共事業見直しの動きとして注目したい。
県は今後20〜30年間の河川整備計画の原案を近くまとめ、武庫川の治水対策として川底を掘るなどして流下能力を上げる河道掘削や堤防の強化などを盛り込む。井戸敏三知事は「ダム整備以外の総合対策に第一義的に取り組む」と述べている。
武庫川ダムは1985年に国の建設認可を受けたが、渓谷の環境破壊を懸念する声が上がり、県は2001年、白紙からの検討を表明した。有識者や市民による「武庫川流域委員会」が論議を重ね、06年に「新規ダム以外の治水対策を優先すべき」と知事に提言している。
提言は「川はあふれるもの」との前提に立ち、被害の最小化を図るという総合治水の考え方が基本になっている。洪水を防ぐため、川床掘削や既存利水ダムの活用に加え、雨水を校庭やため池、水田に一時貯留することも求めた。流域全体で治水に取り組むのが特徴だ。
県はこうした提言の趣旨を踏まえて対策を検討してきた。井戸知事は「ダムは整備期間がかかる。早急にやらなければならない治水対策にまず取り組む」と説明する。しかし、「長期的にはダムが必要になるのではないか」と、将来に向けたダム建設の検討は続けるとしている。
ダム建設をめぐっては、政権交代後、前原誠司国土交通相が「ダムに頼らない治水」への転換を打ち出した。昨年末には10年度に予定される136ダム事業のうち、群馬県の八(や)ツ(ん)場(ば)ダムなど89事業を建設の是非を検証する対象に選んだ。兵庫県内では武庫川など4ダムが対象となっている。
武庫川では、こうした最近の動きに先行して、住民参加で治水を検討してきた。その意義は大きい。流域全体で取り組む総合治水を実現するためには住民の協力が欠かせない。引き続き「行政任せ」にしないという意識を高めていく必要がある。
ダム建設は治水の手段ではあるが、何が何でもダムありきという旧態依然の考え方は見直すべきときにきている。
「脱ダム」の機運が高まる中、治水のあり方をあらためて考える契機にしたい。
(2010/01/08 10:25)
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