社説
篠山自転車実験/町の新しい未来を開こう
自転車は手軽で、環境にやさしい。その長所を生かせば、可能性はまだ広がる。
篠山市が試みた「丹波篠山えこりんプロジェクト」は、自転車が地域振興の手段となることを示す社会実験だった。
主要駅や観光スポットに置かれたレンタサイクルで移動が楽になり、飲食店や観光施設の入場者が増えた。二酸化炭素(CO2)の削減効果も明らかになり、市は4月からの本格実施に自信をみせる。
他の自治体も参考にしたい取り組みだ。
経済産業省の委託を受け、市出資の一般社団法人「ノオト」などが昨年8月中旬から約3カ月間行った。山すその「田園風景」、黒豆畑が見渡せる「豆畑」、旧山陰街道の「史跡探訪」など3種類の地図を作り、利用者に配った。各地図には飲食店や史跡、神社仏閣などが細かく落としてある。
JR篠山口駅と中心市街地の計4カ所に設置された電動自転車、自転車は計134台。利用者は1日700円の使用料を払って行きたい場所へ自由に移動する。
使い方はさまざまだったようだ。あぜ道や路地裏など、自転車利用ならではのポイントを見つけた人。山すその集落を訪ねた足で古い町家が並ぶ城下町を見て回った人。紅葉シーズンには、これまでにない多くの人が訪れたお寺もあった。
自転車に乗ると、土のにおいや風を肌で感じる。漫然と見てきた風景が違って見える。そんな発見もあるようだ。
訪問客の行動範囲が広がり、滞在時間が長くなったことで飲食店やみやげ物店、ギャラリーなどの利用増にもつながった。
それだけではない。CO2排出削減効果がみられ、1人について乗用車で97キロメートル走行した分に匹敵するとの試算結果も出ている。携帯測位システムの分析から、利用者の足取りがわかり、新たな観光資源の発掘につながる可能性も生まれた。
金野幸雄副市長は「篠山にこれだけ見どころがあったかと正直驚いており、観光への手ごたえを感じる」と話す。
課題も残る。道路が整備され、便利になった半面、事故も心配だ。本格実施に向けて、安全対策を講じておく必要がある。
自転車を都市政策の一環として利用する試みは各地で行われている。環境保全と新たな観光資源の発掘を兼ねた篠山市の試みは、地方都市の隠れた魅力を引き出す一つの手本にならないか。
自転車による人と人との触れ合いが、町の魅力を引き立てる薬味になればいい。
(2010/01/07 10:16)
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