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社説

転換のあとに(1)20年の重み/新たな豊かさを再構築しよう 

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市民が吹かせた新しい風

 大転換の先に、本当の明かりが見えてくるのだろうか。むしろ、日本はこのまま輝きを失っていくのかもしれない。

 そんな気分が沈む2010年の年明けだ。景気や雇用の行方は不透明だし、政治も安定しない。世界第2の経済大国の座も風前のともしび…。とはいえ、ここでうつむき加減になっていては、歴史的な「チェンジ」も色あせる。大切なのは変化のあと。これまでの延長上ではない考え方で、明日に向かっていく1年にしたい。

◇        ◇

 「コンクリートから人へ」。昨年の政権交代を象徴する民主党の旗印だ。

 道路やハコモノばかりにお金を投じるのではなく、直接、家計に注いで支える。成長や産業優先から命や生活を大切にする方向へ。分かりやすい路線転換が、国民の支持を呼び起こした要因だろう。

 ところが、ここにきて評価は揺れている。財源難で公約が十分達成できなかった。それ以上に、転換の向こうにある社会や暮らしのデザインが、いっこうに見えてこないもどかしさが原因ではないか。

成長至上を脱して

 司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」がドラマ化されて話題になった。書店には幕末、明治期関連の本が数多く並ぶ。

 大きな構想を抱いて坂を上った時代を思うと、今の日本は様相が違う。人口減が現実となり、高齢化は進む。資源豊かな新興国の追い上げは急だ。莫大(ばくだい)な借金を抱える国はなかなか身動きがとれない。

 もはや「峠を越えたのか」という実感が、あの時代を生きた群像への関心やあこがれに通じているのかもしれない。

 いつの間に、こんな袋小路に入り込んでしまったのだろう。山積する難題をたどっていけば、どうやら発端の多くが20年前ごろにあったらしいことに気づく。

 右肩上がりの成長に終止符を打ったバブル崩壊。目につき始めた少子化の傾向。東西冷戦が終わり、グローバル化と中国の台頭がはっきりしてきたのも、気候変動問題が認識されだしたのも、この時期だ。

 官も民も新たな時代の動きに対応しようとした。しかし、改革の遅れや問題の先送りなどが積もり積もって、今の閉塞(へいそく)感につながった面は否定できない。

 とするなら、やるべきことは、はっきりしている。当然と思っていた拡大や成長至上の考え方から脱し、モノの数や量より生活の質、心の豊かさ、持続性に目を向け、21世紀にふさわしい社会を設計する。分かっていても十分できなかった切り替えに、今こそ本気で取り組まねばならない。

 内外の政治や経済にチェンジが起きたあと、国が果たすべき役割だろう。

 大事なのは、これが暮らしの中でも求められると受け止める姿勢ではないか。すでに社会の再構築を先取りする動きが起きている。まず、そこに目を向けたい。

 たとえば、神戸・新長田のまちを歩いてみる。話題の鉄人28号のモニュメントを多くの人が見上げ、三国志に登場する主要人物の石像を見て回る姿も絶えない。新たな風を吹き込んだ「KOBE鉄人プロジェクト」は、地元の商店主らでつくったNPO法人である。

 日本にNPOという言葉が紹介されたのも、やはり20年ほど前だった。阪神・淡路大震災を経て、1998年に特定非営利活動促進法が制定され、法人の数はいまや兵庫県内だけで1400を超えた。担う分野は福祉や環境、災害救援など幅広い。

 これからの地域社会に欠かせないメンバーとして、確かな存在になっている。

ローカルから動く

 20年、30年先を見通すのは簡単ではない。とりわけ、小さな芽がもつ可能性を正しく読み取るのは至難といえる。ただ、NPOに限らず、新たな社会に通じる糸口が足元にあることは間違いないだろう。

 この先、人々の主要な関心分野として福祉、環境、医療、文化などの領域が発展する。千葉大教授の広井良典さんはそう指摘した上で「内容からしてローカルなコミュニティに基盤をおく性格のものであり、その『最適な空間的単位』は、他でもなくローカルなレベルにある」(「コミュニティを問いなおす」ちくま新書)と記す。

 国のビジョンを待つだけでなく、地域からも「転換のあと」へ動きだしたい。

 高齢化や人口減、環境面の制約をむしろ逆手にとって、質の高い暮らしへの道筋を探れないか。楽な坂ではないが、立ち止まって後ずさりはできない。まず、県内の兆しを訪ねることから始めよう。

(2010/01/01 10:26)

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