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伝統産業振興  京もの購入から始めよう

 和装製品や工芸品など京都の地場産業のバックボーンともいうべき伝統産業が苦境に立たされている。長期的な低迷で体力が弱まっているところに、消費不況の直撃を受けている。早急な振興策を求めたい。
 京友禅の素材ともなる丹後ちりめんの2009年の生産量は前年比23・4%減少した。00年以降下落が続いているが、マイナス幅は10年間で最大だった。西陣織帯地の09年1〜10月の生産数量も前年同期比16・6%減となっている。統計がない他の伝統産品も生産の縮小が続いているとみられる。
 京都は国内最大の伝統産業の集積地だ。西陣織や京友禅、京焼・清水焼など国指定の伝統的工芸品211品目のうち全国最多の17品目がある。京都府は丹後ちりめんや金属工芸品などを国指定品目に加えて計31品目、京都市も京すだれや伝統建築などを加えて計73品目を指定し振興を図ってきた。
 しかし、生活様式の変化や家電、化学繊維など近代工業製品の普及の前に衰退は続いている。国指定17品目の05年の年出荷額は15年前の4分の1の1116億円となった。最近は、はけや筆、織機の部品など生産道具の確保すら難しくなっている。
 当面の課題は、当然ながら需要の拡大だ。府や市などは以前から市場開拓を目指している。最大の消費地首都圏でのPRや若者向け商品の開発、高級品カタログによる富裕層への販売促進などに力を入れてきた。
 ここでもう一度、足元京都での需要拡大に力を入れてはどうだろう。本年度、府は専用ギフト券とカタログをセットにした「京もの愛用券」を、市は市職員や企業、市民向け記念品カタログ「京もの」を作成した。府市協調して府市民を巻き込み、「京もの購入運動」を展開するのも一案ではないか。
 後継者確保も課題だ。就職難もあって伝統産業に魅力を感じる若者も増えているという。しかし、受け皿の企業に雇用する力がなく、働きたくても職がないのが現状だ。
 昨秋、府市、京都商工会議所、大学が「京都未来を担う人づくり推進事業」を始めた。離職経験者88人を有給で雇い教育している。すでに半数近くの就職が内定する成果を上げている。
 就職先の工夫がいるが、伝統産業にも同様の事業があってもいいだろう。府は昨秋、伝統産業「人づくり推進事業」として祇園祭や社寺の文化資料の修理に補助する制度を設けた。若手職人らの仕事と研さんの場の確保が狙いだが、さらに一歩進め給与を受けながら学び、就職できる制度がほしい。
 京都経済や京都観光の強みは、歴史と伝統にはぐくまれた「本物」があるからだと誰もが口にする。その本物の一つが伝統産業である。京都あげて振興に取り組むべきだろう。

[京都新聞 2010年01月18日掲載]

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