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特集ワイド:小沢氏団体の虚偽記載事件を読む

 小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入を巡る事件は、元秘書の石川知裕衆院議員らが政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で逮捕され、小沢氏は「断固として検察と戦う」と宣言した。政権党の幹事長と検察当局の対決が鮮明になった異様な事態を、識者たちはどう見るのか。

 ◇検察主義の国会議員逮捕--元東京地検検事・郷原信郎さん

 小沢一郎・民主党幹事長が16日の党大会で行った説明だけでは、疑惑が晴れたとは言い難い。小沢氏は、購入資金は土地購入の約6年前に信託銀行から引き出して自宅に保管していた父親の遺産と説明したが、遺産相続のこと、相続後の経過、現金化した目的など、もっと詳しく説明しなければ、国民が納得できるとは言えない。

 一方で、現職の国会議員を国会召集の3日前に逮捕した検察にも大きな問題がある。小沢氏側が土地を購入した4億円の出所に問題があるとの報道があるが、政治資金収支報告書に記載されなかった金は、どこから提供されたものなのか検察は特定していないとみられる。国会議員を国会開会中に逮捕する時はふつう容疑内容を明らかにするが、それすら特定しないのでは開会後の逮捕許諾請求は困難だったと思われる。

 政治家は日常的に、資金団体との間で経費の立て替えなどをしている。どこまで忠実に収支報告書に記載するかで収入・支出の総額はいかようにも変わる。それを虚偽記入だとして国会議員を逮捕できるなら、検察はどんな政治家も逮捕できることになる。検察が国会以上の強大な政治的権力を持つことになり、民主主義の崩壊を招きかねない。

 そもそも職務権限や時効の問題があって、収賄、談合、脱税など政治資金規正法以外での立件は考えにくい。水谷建設が国発注のダムの工事受注の謝礼として5000万円を小沢氏側に渡したと元幹部らが説明していると報道されており、今後の捜査の最大のポイントになっているようだ。だが、その元幹部の贈賄供述で立件された佐藤栄佐久前福島県知事の汚職事件の控訴審判決で「わいろ額はゼロ」とする無罪に近い判断が示されている。また元幹部が実刑判決を受けて受刑中であること、仮釈放ほしさに検察に迎合する動機も十分にあり、核心の供述として扱うのは危険だ。【聞き手・中山裕司】

 ◇外圧に「徹底抗戦」で結束--ジャーナリスト・上杉隆さん

 昨年3月に大久保隆規秘書が逮捕された後、小沢氏は記者会見を度々開き、5月には民主党代表の職も辞した。周辺によると、小沢氏は説明責任、政治責任をともに果たし、検察に譲歩したんだから、休戦だろうと思っていたが、新たな逮捕者が出た。小沢氏は検察の事情聴取を受けた方が良かったと私は思うが、小沢氏自身は「十分説明した、これ以上何をやるんだ」という感覚だった。取材によると小沢氏は検察と、検察筋からのリーク情報を書くマスコミが一体になって攻めてきていると感じ、徹底抗戦しようと考えている。

 小沢氏は突然起きた事態とは思っていない。仕えてきた田中角栄元首相、金丸信元自民党副総裁に対する検察の対決姿勢が頭にあり、検察はついに自分に向かってきたという思いだ。秘書たちは小沢氏を慕っており、事務所の空気は「宗教」に近い。外から「迫害」されるほど内部の結束は高まっている。

 私は小沢氏は現代の政治家としてはあまり評価していない。政治家とは結局コミュニケーターであり、求められるのは、国民にどうメッセージを伝え、説明責任を果たすかという能力だ。小沢氏は55年体制下では評価できるが、今の政治体制では発言が少なすぎ、政治家としては時代遅れだ。しかし霞が関改革などの政策面では、小沢氏は先見性があると思う。

 党大会で小沢氏が断固戦う姿勢を見せ、鳩山由紀夫首相も「潔白を信じる」と言った以上、党内で支えるしかない。ただ、鳩山首相が「(検察と)どうぞ戦って」と発言したのは踏み込みすぎだ。行政の長である首相が、検察当局の捜査内容に予断を与えるようなことは言うべきでなかった。

 政治とカネの問題は立法府である国会で解決することが大切で、捜査任せはよくない。政治倫理審査会などの場で、小沢氏は堂々と説明すべきだ。【聞き手・宮田哲】

 ◇政権交代への失望恐れよ--元経企庁長官・田中秀征さん

 小沢さんがやましいことがないと言うならば、地検の事情聴取に応じるか、もしくは記者会見で身の潔白を証明すればいい。小沢さんが説明しないことが政治への不信感を呼び、この不信が鳩山政権への不信へとつながり、最後はせっかく実現した政権交代への失望につながることを政府・与党は最も恐れるべきだ。

 鳩山由紀夫首相の「どうぞ戦ってください」という発言にもあぜんとした。政府のトップにある人が、政府内の検察庁に向かって「戦ってください」と語るのはいかがなものか。首相が18日に「私は(検察の捜査へ)介入するつもりは一切ありません」と話したが、これは弁明にもなっていない。首相自身が「不用意な発言だった」と国民に陳謝するしかない。首相から「戦ってください」と言われた小沢さんも検察と戦うならば、幹事長を辞めて戦った方が筋としてすっきりする。もっと言えば、民主党を離党して戦うなら、国民は小沢さんを高く評価するだろう。

 首相も小沢さんの場合も動いた政治資金が巨額すぎ、国民の金銭感覚からかけ離れている。それを2人は自覚していない。国民はその巨額のカネを何のために使うのかを明らかにすべきだと願っている。政治とカネの不透明な関係をなくそうと政党助成金を制度化したにもかかわらず、いまだに不透明で巨額なカネが動いていることに国民は疑問を持っている。

 民主党の若手議員にも一言ある。小沢さんが党大会で行った説明に対し、若手議員から異論は一切なかった。小沢さんの説明に100%共鳴したなら別だが、異論を述べなければ小沢さんの手法に賛同したと思われても仕方がない。昔の自民党の派閥の方がまだ言論の自由があった。若手議員は小沢さんのおかげで議席を得たのではなく、自民党の自滅のおかげで議席を得たことを忘れてはいけないと思う。【聞き手・中山裕司】

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 ■人物略歴

 ◇ごうはら・のぶお

 1955年生まれ。東大理学部卒。名城大教授。元東京地検特捜部検事。昨年、民主党が設置した「政治資金問題第三者委員会」で委員を務めた。

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 ■人物略歴

 ◇うえすぎ・たかし

 1968年生まれ。ジャーナリスト。鳩山邦夫元総務相の秘書、ニューヨーク・タイムズ東京支局取材記者などを経てフリー。著書に「官邸崩壊」など。

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 ■人物略歴

 ◇たなか・しゅうせい

 1940年生まれ。東大文、北海道大法卒。福山大客員教授。細川護熙内閣で首相特別補佐、橋本龍太郎内閣で経済企画庁長官を務めた。

毎日新聞 2010年1月19日 東京夕刊

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