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診療報酬改定  医療再生につなげたい

 プラス改定となった2010年度の診療報酬について、厚生労働相の諮問機関、中央社会保険医療協議会(中医協)で配分を決める議論が始まる。
 鳩山政権は診療所(開業医)から病院勤務医への財源移転を目指すが、今夏の参院選とも絡み、両者の対立構図の中で是非が語られがちだ。命を預かる医療全体の再生をどう図るか、という本題を忘れないでもらいたい。
 2年ごとに行われる診療報酬改定は過去4回、小泉政権に始まる構造改革路線でマイナス改定が続いていた。
 民主党の衆院選マニフェスト(政権公約)に沿って昨年末、10年ぶりに0・19%のプラス改定が決まった。医薬品などの薬価部分を1・36%減らし、その分を充当して医師の技術料などに当たる本体部分は1・55%増とした。医療費では約5700億円増える。
 厚労省はその多くを病院勤務医、とりわけ救急や産科、小児科の医療充実に振り向ける考えだ。具体的な点数配分は、きょうからの中医協の議論に委ねられる。政権の思惑通りに進むかどうか、その焦点となるのが2回目以降の診察にかかる再診料の扱いだ。
 現在、再診料は病院600円に対し、診療所710円と開業医に手厚い。
 中医協は昨年末、再診料を統一することで合意した。しかし、その道筋をめぐって、開業医の意向が反映しやすい日本医師会(日医)と、厚労省の見解は真っ向から対立する。
 診療所の再診料10円は医療費ベースで約100億円に相当する。厚労省は診療所の再診料を引き下げる形で一本化すれば、病院に充てる財源が工面できると考える。一方、日医は病院側の再診料を診療所の水準に引き上げるべきとする。政府が念頭に置く「650円前後の一本化」は見通せない。
 現場の疲弊が深刻な救急や産科、外科などは訴訟リスクが高く、勤務時間も不規則で長い。病院勤務医の待遇改善は待ったなしだ。限られた財源を生かすには、地域医療に心血を注ぐ開業医には報いながらも、診療報酬の大胆な配分見直しが避けられない。
 再診料は前回の08年度改定でも焦点となったが、自民党を支持する日医の幹部も務める中医協委員の反対で見送られた。政権交代後、日医幹部は委員から外されたが、現政権についても団体との距離には不透明感が漂う。
 今回の報酬改定では歯科の改定率が医科を上回った。日本歯科医師会の政治団体が今夏の参院選で自民からの組織内候補擁立を取りやめた効果との見方がある。団体の政治力がものをいうようでは自民政権と何ら変わらない。
 現政権に期待されているのは急性期から慢性期、介護を含めた機能分化を確立し、それぞれを連携させた医療全体の再構築のはずだ。診療報酬改定の議論を、そのきっかけにしてほしい。

[京都新聞 2010年01月13日掲載]

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