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財務相発言  重さと責任、深く自覚を

 就任したばかりの菅直人財務相がテレビの報道番組で、消費税率の引き上げについて「この1年は徹底的な財政の見直しを進めていく。その上で必要なら議論していく」と発言した。
 予算の組み替えを先行させて、本格的な引き上げ論議は2011年度から始める姿勢を示したものと受け止められている。
 鳩山由紀夫首相は4年間引き上げないと明言しており、財務相発言もその延長線上にあるといえよう。合わせて207兆円の一般会計と特別会計に、切り込もうとする意気込みは、よく理解できる。
 しかし、深刻な財政危機の中、国税収入の2割を超える主要財源に対して、国家財政の責任者がこのような方針を取って済むのだろうか。
 新政権では、発足時に藤井裕久前財務相が円高容認と聞こえる発言をしたほか、経済財政相としての菅氏が昨年11月の月例経済報告で具体的な対策を用意することなくデフレを宣言。企業心理の下振れを招いたとされる。
 菅財務相は7日の就任会見でも「円安誘導」を口にして物議を醸した。
 これらの発言は、いずれも世界経済や企業業績に大きな影響を与える立場をわきまえていないとしか考えられない。財務相が、発言の重さと責任を、もっと自覚するよう求めたい。
 「円安誘導」発言は、外国為替市場の動向について「1ドル=90円台半ばが適切という見方が多い。もう少し円安の方向に進めばいいと思っている」とした。これを受けて、1ドル=92円前半だった円相場が、一時は93円後半まで急落した。
 財務相が為替相場の水準に触れるのは異例という。市場に介入する意思があると解釈されるからだ。介入が貿易相手国の意に沿わず、摩擦を生む場合もあろう。経済状況を映す鏡である市場の機能を、ゆがめることにもなりかねない。石油など輸入関連産業への影響も心配される。
 口先だけの介入を続ければ、本当に必要な局面で効果を挙げられない。鳩山首相が「政府としては基本的に言及すべきでない」と、たしなめたのも当然だ。
 消費税率の引き上げ論議に関しては、閣内からも異論が出た。
 菅氏の財務相就任に伴い、国家戦略担当相を兼ねることになった仙谷由人行政刷新担当相は「どういう税制が社会保障を維持するシステムとしていいのかという観点から、議論は常時しておかなければならない」とする。
 予算の組み替えが、必要な成果をもたらす保証はない。事業仕分けを担当した仙谷氏の主張の方が、説得力を持っているように思える。このままでは、論議の先送りは参院選をにらんでのこと、との疑念も生じよう。

[京都新聞 2010年01月12日掲載]

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