深刻化する親による児童虐待を防ぐため、国が、親権を制限する法制化に向けて踏み出した。
法務省や有識者らでつくる「親権制度研究会」が、今月中にまとめる報告書に親権制限の必要性を明記する。これを踏まえ、千葉景子法相は2月にも法制審議会に民法改正を諮問する方針を示した。
親権は、親のための権利というよりも、未成年の子どもの利益を実現するという義務と責任の側面を中心にとらえる必要がある。
これまで「聖域」とされてきたが、子どもの命を守り、成長を確保するためには、一定の制限はやむを得ないだろう。
全国の児童相談所(児相)が2008年度に対応した児童虐待相談件数は4万2664件に上り、児童虐待防止法が施行される前の1999年度の約3・7倍に増えている。
虐待する親から子どもの命を救えなかった痛ましい事件や、虐待で児童養護施設に入った子どもを親が無理やり連れ戻そうとする事例があとを絶たない。
現行法で虐待通告を受けた児相は、家庭裁判所に「親権喪失宣告」や、結論が出るまで親権を停止する保全処分を請求できる。
しかし、期限を定めない親権のはく奪は、その後の親子関係への影響が極めて大きいうえ、家裁の判断が出るまで時間がかかる場合もあり、親権を柔軟に制限できる法制化を求める声が強まっていた。
法制審では、一時停止の期間や、親権のうちどの権限を停止の対象とするのか、施設長らの権限の優越性をどう保つのかなどを入念に討議して、実態に即したものにしてもらいたい。
福祉の現場では、子どもへの対応をめぐって、やむを得ず引き離しを選択する児相と、手元に置くことを望む親がぶつかり合っている。
司法の関与が手続き面で増すことで、専門家の間には、児相と親との対立の構造が緩和されるのではないかとの期待もある。
押さえておきたいのは、親権制限は親と子の関係に冷却期間を置く一時的な措置であって、最終ゴールではないことだ。
虐待してしまう原因や背景は、育児ストレスや配偶者、同居人への不満などさまざまだ。
深刻な虐待をした保護者の約3割が、虐待を認める一方で援助を求めているという調査結果もある。
親子のきずなを結び直すためには、子どもへの支援とともに、親にも手を差し伸べることが欠かせない。
子育ての技術を教えたり、軽費でカウンセリングを受けられるようにする態勢などの充実が不可欠だ。
[京都新聞 2010年01月09日掲載] |