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地域主権  国のかたちを変える出発点に

 政権交代で何が変わったのか。
 鳩山政権が掲げる「官主導から政治主導へ」「コンクリートから人へ」の政治理念は、十分とはいえないまでも事業仕分けや予算案の編成過程で方向が見え始めたのではないか。
 それに比べ鳩山由紀夫首相が年頭会見でも政権の「一丁目一番地」と形容し、あらためて重要性を強調した「地域主権」は出遅れた感が否めない。
 明治以来、続いてきた中央集権という政治の仕組みを改め、地域のことは地域に住む住民が責任を持って決めるようにする。
 つまり、この国のかたちを変えようというわけだから大仕事に違いない。今年から、地域主権確立に向けた取り組みがいよいよ本格化する。
 まず18日召集予定の通常国会に「国と地方の協議の場」を設置する法案や国が法令で自治体の仕事を縛る「義務付け」の見直しを柱とする地域主権推進一括法案などを提出。夏には改革の基本指針となる「地域主権戦略大綱」を策定する、といった具合だ。
 民主党の政権公約には、中央政府の役割を外交や安全保障に限定し、国の事務権限を地方に移す一方で、地方の自主財源を大幅に増やすと明記されている。国と地方の役割分担や自治のあり方が問われるだけでなく、税制の論議抜きには語れないということだ。
 実現すれば国のかたちはどう変わるのか。青写真を示すとともに住民主役の自治、自らの主権を実感できる仕組みをつくる出発の年としてほしい。

 根強い霞が関の抵抗

 改革の推進役となるのが、鳩山首相を議長に、閣僚と橋下徹大阪府知事をはじめ自治体の首長や学識者らでつくる地域主権戦略会議だ。
 自公政権下の地方分権改革推進委員会に代わる組織にみえるが、従前のような諮問、答申を得て政府が取捨選択するのではなく、同じ場で議論して決めるやり方に変えた。
 これなら官僚や族議員も横やりを入れることができないだろう。
 問題はどんな道筋で地域主権を実現させるかだが、昨年末の同会議の初会合で示された政府の工程表案によってある程度、輪郭はつかめそうだ。
 地域戦略大綱には、使途が決められた「ひも付き補助金」を廃止し、一括交付金化を段階的に導入することや国の出先機関の原則廃止といった基本方針を盛り込む。策定3年後には改革の進ちょく状況を点検したうえで新たな「地域主権推進大綱」を策定する。
 工程表案には地方自治法を改正し、「地方政府基本法」を制定する方針も掲げるなど盛りだくさんの内容だが、既得権益を守ろうとする「霞が関」の抵抗は政権が変わっても根強い。
 義務付け見直し一つをとっても、地方が求めた104項目のうち、府省が分権推進委の勧告通り見直すとしたのは36項目にすぎない。

 期待大きい協議の場

 物足りないのは工程表案に、自治体の自立に不可欠な地方税財源の拡充に関する具体策の記載がないことだ。
 地方が求める地方消費税の拡充も、消費税率を4年間は引き上げないというのが政権の方針だけに難しい。
 補助金の一括交付金化も「国が配分方法を決めるなら、補助金と変わらない」との声もある。
 自治体の台所はいずれも火の車だ。財源拡充を、どういう形で実現するのか。来年度の税制改正を待つのではなく、今からでも論議を始めるべきだ。
 地方分権改革の歩みを振り返れば、かけ声倒れの連続で、それに振り回されてきた地方の不信感は根深い。
 それだけに「国と地方の協議の場」に寄せる期待は大きい。
 国と地方のあり方を検討したり、政府と地方が対等な立場から企画立案の提案を行う場で、京都選出の松井孝治官房副長官や山田啓二府知事らでつくる実務検討グループもスタートした。
 協議結果を政策に反映させることが大事だ。地方の声を聞き置く「ガス抜き」の場とならぬように願いたい。

 おまかせ政治と決別

 鳩山政権誕生を受け、地方の現場では地域主権を先取りするような動きが出始めている。
 京都、滋賀、大阪の3府県知事が創設を提唱する、琵琶湖・淀川水系の流域のあり方を考える「流域自治会議」もその一つといえる。
 実現には高い壁があるが、国が一元管理してきた河川を地域に取り戻す、河川の状況が分かっている市町村や府県が直接かかわり、総合的に取り組もうというのだから、まさに地域主権の理念そのものではないか。
 滋賀県の嘉田由紀子知事は「分権を進めるため、自治体の方がよりよい住民サービスができるという例を挙げる必要がある」と狙いを語る。
 近畿知事ブロック会議も、廃止後の国の出先機関の受け皿となる広域連合設置を視野に、受け入れるべき国の事業の仕分けに取り組む予定だ。
 一方で国から事務権限を移譲された時に、今の自治体に住民要望に応えるだけの力量があるのか、といった不安があるのも事実だ。職員の意識改革はもちろん、議会とともに行政、自治能力を高めることが欠かせない。
 地域主権の主役である住民も変わらなければならない。「おまかせ政治」と決別し、自分が暮らす市町村の未来に責任を持つことが求められる。
 国のかたちを変えるのは容易ではない。まずは一歩を踏み出すことだ。

[京都新聞 2010年01月07日掲載]

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