景気が再び後退する「二番底」が懸念される中、新しい年が始動した。デフレ脱却が日本経済の最優先課題だ。
大発会の4日の東京株式市場は、世界経済の回復への期待から終値は1万654円79銭で1年3カ月ぶりの高値水準となった。まずまずのスタートといえるだろう。
政府は昨年11月に、3年5カ月ぶりにデフレを宣言した。しかし、物価が下がり続けていると喜んではいられない。
デフレの怖さは企業の売上額が減少して投資や雇用が減り、倒産や失業者の増加、家計の所得低下を引き起こすことにある。国や自治体の税収も減ってしまう。
日本の経済自体が縮んでしまう悪循環に陥る恐れがあり、早期に手を打たなければならない。
金融政策を担う日銀は昨年12月に追加の金融緩和策を決めた。公開市場操作(オペ)を通じて、金融機関に政策金利と同じ年0・1%の超低金利で10兆円規模の資金を3カ月間貸し出す内容だ。
円高を抑える効果とあわせ、大量の資金を供給することで企業の設備投資や個人の住宅購入などを促す狙いがある。
続いて日銀は、消費者物価の前年比上昇率が「マイナスの値は許容していない」と言明し、デフレ克服への姿勢を強調した。
膨れ上がる国の借金
しかし、金利の調節や量的緩和による金融政策だけで景気を下支えするのには限界がある。
政府も財政出動を求められる。ところが日本は深刻な財政赤字で、先進国の中でも際立って財政状況が悪い。
鳩山政権は2010年度予算案の編成にあたり、税収の大幅減を見込まざるをえず、財源確保に頭を痛めた。
苦しい台所事情のなかで、マニフェスト(政権公約)に掲げた子ども手当や、農家の赤字分を国が補てんするコメの戸別所得補償制度の新設などを盛り込んだ。
子ども手当や戸別所得補償制度は家計を刺激し、国内総生産(GDP)をある程度は押し上げる効果を期待できるだろう。
しかし、借金である国債の新規発行額は44・3兆円に上り、当初予算では過去最高となる。国債発行残高は10年度末に637兆円に達する見通しだ。
将来の世代につけを回すだけではない。金利の面からも景気に悪影響を及ぼす。
これ以上、大幅な財政出動をしないためには需要を喚起し、創出する経済政策が一層重みを持つ。
鳩山政権は20年までの10年間の「成長戦略」の基本方針を打ち出した。
現在5%台の失業率を今後4年間で3%台に改善するのをはじめ、20年度までの平均でGDPは名目3%、物価変動の影響を除く実質で2%を上回る成長を目指すという内容だ。
環境・エネルギー、健康(医療・介護)、アジア、観光・地域活性化など6分野で新たな需要を創出し、雇用につなげたいとしている。
アジア「内需」が鍵
方向は間違っていない。だが、どう具体的に需要を創出するのか、その道筋がまだ描けていない。
政府は6月の具体策とりまとめに合わせて工程表を策定する方針だ。絵に描いたもちとならないように、実効ある施策を示すべきだ。
成長戦略の中で、注目したいのがアジア太平洋自由貿易地域の構築を含むアジア戦略だ。
中国やインドなどアジアの新興国市場の経済成長はめざましく、世界の「成長センター」ともいわれている。中国は今年中にGDPが日本を抜いて世界第2位になる見通しだ。
日本は技術力を生かしてアジア市場を含めて「内需」ととらえて、共に成長していくことが欠かせない。
その実現のためには、他国との自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)といった貿易と投資などの自由化が焦点になるだろう。
日本は食料自給率確保の面からも高率の関税で農産物の輸入を制限している。
国内の農業をどう再興し、市場開放も両立させるのか。鳩山政権は農業、貿易、投資の将来ビジョンを明確に示してほしい。
将来不安を取り除け
現在のところ、アジアの新興国市場は好調だ。しかし、寄りかかり過ぎてもいけない。今後も高成長が続くとしても、本来あるべきは国内の需要拡大だ。
日本は人口の減少、少子高齢化で内需自体が縮んでいる。さらに将来不安から、財布のひもをゆるめることができず、個人消費が盛り上がらない。
内需拡大には、安心して子育てができ、老後を送れる社会保障制度をしっかりと作り上げることが肝要だ。
そのためには、消費税や、世界的にみて高いといわれる法人税の実効税率など税制を抜本的に見直すことが欠かせない。
危機こそ好機ともいわれる。地球温暖化を防ぐ低炭素社会の実現が、これからの時代の要請だ。
京都はベンチャーから大きく育った企業を輩出している。苦境にあっても、環境関連をはじめ研究開発の投資を惜しまず、企業は大胆な発想で困難な道を切りひらいてほしい。
[京都新聞 2010年01月05日掲載] |