京都府、滋賀県とも知事選挙の年を迎えた。
任期満了なら4年に1度、自分の暮らす府県の針路を確かめ、場合によっては政策や事業の見直しを求める重要な機会である。
まずは、現職の山田啓二京都府知事、嘉田由紀子滋賀県知事の去就が焦点となる。表明時期、立候補するなら選挙態勢も注目されよう。
今年は通常の改選期とは状況が異なる。昨年の衆院選で、選挙による戦後初の政権交代が実現した。民主党を中心とする3党連立政権が発足して、初めての知事選となる。
衆院選では京滋においても、民主党が絶大な支持を得た。これが知事選に、どう影響を及ぼすのか。今の府県の政治的な枠組みが、大きく変わるかもしれない。有権者は、目を凝らして推移を見詰める必要がある。
備わったアメとムチ
民主党は、「地域主権」の推進を政策の柱としている。
実際、2010年度政府予算案では、地方交付税を本年度より1兆円超も増額したのに続き、国が法令で自治体業務を縛る「義務付け」の見直しなどを盛り込んだ一括法案を通常国会に提出する。今夏には、地方の自主財源強化や国直轄事業負担金の廃止、権限移譲の具体策をまとめ、「地域主権戦略大綱」を策定する予定だ。
三位一体改革などで疲弊が著しい地方を重視する姿勢は歓迎する。
その一方で、党と政府の一元化方針にのっとり、予算編成に対する地方の陳情の窓口を党の都道府県連に一本化した。地方が国を頼って事業を進めようとすれば、民主党の方を向かざるを得ない。しかも、知事選や政令市長選では、与野党が同じ候補に相乗りすることを禁じている。
長く政権を担当した自民党との決別を地方に促すアメとムチを備えた。
京都府知事選は、4月11日投開票となった。現在、2期目の山田氏は、これまで民主、自民、公明、社民の各党に支えられ、共産党の推す候補らを退けて当選してきた。国政与野党の相乗り候補そのものといえる。
7期28年に及んだ蜷川虎三知事の府政のもとで共産党が力を蓄えた京都は、全国から「革新の灯台」と呼ばれた。相乗りはこれに対抗するための戦略であった。今回も共産党などでつくる民主府政の会が推薦する病院長の門祐輔氏が、すでに名乗りを上げている。
しかし、民主、自民、共産の3党が競った昨年の衆院選の京都6小選挙区で、民主党が5議席を奪う勢力となっては、そうした京都独自の事情も過去のものとなりつつある。
山田氏は経済界だけでなく、民主党を支援する連合京都からも立候補を要請されている。さて、どうするのか。
一方、7月19日に一期目の任期満了となる嘉田氏は4年前、環境団体のメンバーらを中心に選挙運動を展開し、民主、自民、公明の各党や連合滋賀の推薦を受けた前職を破って滋賀県知事の座に就いた。山田氏とは違い、政党とのしがらみはないに等しい。
政党色を、どう判断
「もったいない」を掲げ、新幹線新駅やダム事業の凍結といった公約を実現した。政策的には現在の民主党の先を行く。
議会で対立した自民党は、その後の県議選で惨敗。昨年は、嘉田県政に是々非々で臨む議員らが離脱して分派をつくった。県内選出の国会議員は衆参とも全員が民主党だ。
この流れから見て嘉田氏が立つのなら、民主党の接近が十分考えられる。ただ、草の根の選挙を勝ち上がった嘉田氏が、支持者に配慮して政党色がつくことを避ける可能性も高い。
そこで思い出すのは、昨年行われた城陽市長選と神戸市長選である。
衆院選と同じ8月30日に3選を果たした橋本昭男城陽市長は、市議会与党だった民主党の新人らを退けた。
自公推薦の橋本氏には、逆風が吹いていたはずだ。しかし党中央の方針に準じて相乗りを避けた民主党に大義はない、と有権者は判断したようだ。
算段は見透かされる
10月25日の神戸市長選では、前回は相乗りの現職矢田立郎氏が、民主党の単独推薦に切り替えた。3選を果たしたが、組織を持たない無所属新人に小差に迫られた。民主党の隆盛を見ての算段が、見透かされた格好だ。
地方議会には、自民党や保守系の議員が優勢なところがまだ多い。今夏の参院選を前に民主党は、自民党の基盤を一気に崩そうとしている。だが、地域の事情を無視してまで党の方針を強引に押し付けては逆効果だ。党是の「地域主権」にも反するのではないか。
京滋の知事選が、いたずらに政局に振り回されるような事態は、あってはならない。
京都府、滋賀県とも今年の喫緊の課題は厳しい雇用情勢の改善である。不況で税収が落ち込み、財政出動もままならない。こうした中で京都府は、市町村の国民健康保険一元化、税務共同化に取り組む。滋賀県では新幹線新駅跡地の活用が動きだしたところだ。
市町村に目を向けると、地下鉄の赤字が重くのしかかる京都市は自治体財政健全化法の健全化団体に指定される寸前だ。県都の大津市も赤字の競輪事業の存廃を判断する時期を迎える。両府県内には懸案が山のようにある。
難局を乗り切るためにも、政策を競う知事選を期待したい。
[京都新聞 2010年01月04日掲載] |