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2010年01月17日地域性、歴史で物語再構築 見直そう近代化産業遺産
日本は幕末から昭和初期、戦前まで近代化への歩を急速に進めた。モノづくり日本の黎(れい)明(めい)期。製鉄、鉱業、窯業、造船・海運、鉄道、繊維、化学、製紙、醸造や食品工業、観光などの基幹産業が生まれた。そのルーツを今に伝える工場などの建物や機械設備、鉱山跡、トンネル、橋、港湾施設が近代化産業遺産だ。これを地域おこしや観光に活用しようという動きが全国で起きている。
■全国1115件認定
本紙1月3日付2、3面の特集で県内の産業遺産にスポットを当て、活用への動きを探った。ただ、近代化産業遺産という概念は最近になって生まれたわけではない。既に国の登録有形文化財や土木学会の選奨土木遺産になっている施設がある。世界遺産の日本暫定リストに入っている富岡製糸場と絹産業遺産群(群馬県)など有名なものも少なくない。
今あえて近代化産業遺産として見直しの動きが生まれている背景には、その価値が十分に生かされていない面もあるからだ。
動きが活発化したのは2007年度。経済産業省が全国の近代化産業遺産575件を認定し、地域史や産業史別に33遺産群の「物語」にまとめた。この一つに勝山、福井、鯖江市の絹織物関係の建築物などが繊維産業遺産群に入った。
いち早く動いていた勝山市は、購入した旧機業場を昨年7月に「はたや記念館ゆめおーれ勝山」としてオープンさせた。産業遺産活用の好例として全国的にも注目されている。
08年にも全国540件が遺産として認定を受け、さらに33遺産群が誕生。県内からは敦賀市の旧柳ケ瀬隧(ずい)道(どう)が鉄道網形成に貢献したトンネル建設の一つに、坂井市の三国港エッセル堤が、港湾土木技術の遺産群に選ばれた。
■ルーツを見直し
県内にはほかにも産業遺産が数多く残っている。企業で使われていた古い機械、工具なども企業や地域産業を支えてきた歴史の”語り部”だ。このまま何も手を差し伸べなければいずれ解体されたり、処分されたりして消えてしまうかもしれない。
一昨年の秋に始まった世界同時不況は、いまだ地方経済に暗い影を落としている。国内大手企業は人員や生産コストを削り、利益確保に努めた。そのしわ寄せは地方の下請け企業に「受注減」として重くのしかかっている。産業遺産とはいっても、経営改善に直接結びつかないのでは活用に力を注げないという現実も確かにある。
だが、産業構造の転換期といわれるいま、新たなステージへ踏み出すためにもルーツを見直すことは大事だ。産業遺産は企業にとってだけではなく、地域にとっても「らしさ」を示す財産だ。
■「点」を「面に」
県内では、まだ近代化産業遺産への認識が高まっているとはいえない。あちこちに点在する各遺産をどう結びつけて「面」で見せるか。経産省が行った産業遺産の掘り起こしと、地域史や産業史でまとめて「物語」に仕上げる作業を、県内でも行ってはどうか。そのためには、まとめ役として行政のかかわりも必要だ。
他県の遺産群との連携も可能だ。「のこぎり屋根」の織物工場跡利用を進めている群馬県桐生市は福井の羽二重生産と深い縁がある。広域的な「物語」で、遺産群の価値が高まるだろう。
既存の観光施設、自然、食を組み合わせ、より付加価値をつける工夫も必要だ。まちづくりでも、産業遺産をランドマークや特徴にできる。港町敦賀のシンボルとしての赤レンガ倉庫なども、知恵を絞れば面白い活用ができそうだ。市民も巻き込んで身近にある産業遺産にいま一度、目を向けてみよう。
(三木 隆)