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2010年01月10日臨床研修医、県内は大幅増 忘れてならぬ制度の理念
2010年度春から医師になる大学生が臨床研修病院を選ぶ「マッチング」で、県内7病院の採用予定者は73人になり、昨年春の49人から一気に24人増えた。各病院独自の受け入れ態勢充実とPR強化が奏功したようだ。県内は設備の整った病院や優秀な医師が多く、臨床研修の条件はそろっている。医師不足解消へこの流れを絶やさぬ工夫を続けたい。
地域の医師不足は深刻だ。この解消を図るため昨年5月、臨床研修制度が改正された。だが、これには全国の医療関係者や教育現場の一部で懐疑的な見方が残っている。医師不足問題と研修制度自体を同じ土俵に乗せたことが原因だ。厚生労働省の「制度のあり方検討会」でも、「研修制度が地域の医師不足を招いた」との指摘と、逆に「制度は不足の実態を顕在化させただけ」とする意見が混在した。いずれにせよ研修医の基礎的な診療能力を向上させる制度の理念を忘れてはならない。
■大学医学部定員を増員へ■
県内の臨床研修7病院の採用予定内訳は、福井大医学部付属が44人。卒業予定者に県内出身者が多かったこともあり16人増えた。県立10人、県済生会8人、市立敦賀6人、公立小浜4人、福井赤十字1人、福井総合はゼロだった。
国は08年度、医師不足を招いた一因といわれる大学医学部の定員抑制策を転換し、増員を打ち出した。これを受け昨年、県と福井大は10年度入試から医学部定員を5人程度増やす方針を決め国に申請した。医師確保には病院、行政の連携が欠かせない。県内の優良な医療情報発信も必要だ。学生に地元の医療事情を、積極的にアピールすることも求められる。
■専門医も広い診療能力を■
休日・夜間の病院にはいろんな急患が駆け込んでくる。高齢社会では複数の病気を持つ人が多くなる。専門医といえども幅広く診療能力を備えていることが望ましい。04年度に始まった制度の狙いはこの基本部分を身に付けてもらうことにあった。それまでは大半の医師が出身大学の医局に残り、いきなり専門分野に入ったため専門外は診療できない医師が目立ったことへの反省である。
今改正の柱は二つある。2年間で義務づけていた内科、救急、外科、産婦人科など7診療科目の必修を内科と救急など3科目に削減し、残りの科目から2科目を選択必修とした。必修科目の研修も実質1年に短縮された。あとの1年は専門科目での研修に充てるとした。
もう一つは研修医の都市部集中を緩和するために、都道府県や研修病院ごとに定員枠を設け、研修病院としての要件も厳しくした。この結果、全国の10年度の募集定員は大都市部(6都府県)で減って、地方が初めて6割を超えた。
■医学教育全体の改革必要■
研修制度の評価はおおむね良好である。「多くの科を経験し診療の幅が広がった」「当直でどんな患者にもなんとか対応できるようになった」など、研修医だけでなく、現場の病院関係者の多くも認めている。それだけに今改正に疑問を呈する声は少なくない。制度の目的が達成されない弊害は案外大きいかもしれない。
大学病院は地域に医師を派遣する重要な機能を持つ。医学部定員を優遇したことは医師確保に一定効果は見込める。しかし、研修医が都市部に流れ、残らなかった事実も各大学病院が真剣に受け止めなければ根本的な解決にはならない。
大学は教育や研究の使命を担い一般病院ほど研修に力を注げない事情はあるが、研修医が魅力に思う内容を充実させ、卒前、卒後を見通した医学教育全体の改革に結びつけてほしい。(大塚 潤三)