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社説
ライチョウ人工飼育/身近な環境考える契機に
2010年01月11日 01:59
国の特別天然記念物・ライチョウの保護に向け、富山市ファミリーパークが近く全国3カ所の動物園と連携し、ノルウェー産「スバールバルライチョウ」の人工飼育に取り組む。日本産と生理・生態が似ており、繁殖、保護技術の基礎データを集積するのが狙いだ。ライチョウは今、大型動物の高山侵入や地球温暖化の影響で生存が脅かされつつあるという。絶滅危惧(きぐ)種に指定された貴重な鳥の種の保存は、環境保全が叫ばれる中、人間と自然とのかかわり合いのあり方も問いかけている。
ライチョウは世界で23亜種おり、日本産は南北アルプスなど標高2千数百メートルに生息する。日本の鳥類で最も厳しい環境下にいるとされ、県内では霊峰立山の「神の使い」として県鳥になっている。
5年に1度、立山・室堂で生息調査をしている県自然保護課によると、県内全体で約1300羽おり、多少増減はあるが大きな変化は見られないという。一方、信州大学の調査ではここ二十数年の間に南北アルプスで40~60%減少していると推定している。正確な生息数の推移を把握することは難しいが、その生態系の維持に危機感を抱く関係者は少なくない。
その理由の一つが、本来は低山にすむイノシシやニホンジカ、ニホンザルなど大型動物の侵入だ。昨年6月、標高2300メートルの立山・地獄谷で雪上を走る3頭のイノシシが写真に収められたことは衝撃的だった。雑食性であるイノシシなどがライチョウの餌となる高山植物を食べ、高山帯の自然に影響を与えているとみられる。
もう一つは地球温暖化である。標高の高い地域であればあるほど環境の変化は顕著で、ライチョウは他の動物に先駆けて影響を受けるという。これまで野生の状態での保護が議論されてきたが、飼育や繁殖に注目が集まってきたのもそうした理由からだ。
富山市ファミリーパークが名乗りを上げたのも、3頭のイノシシの写真が契機になったという。提携先の上野動物園では既にスバールバルライチョウの人工ふ化に成功している。日本産のライチョウの生態はまだ未知の部分が多い。繁殖などの生態が分かれば、万が一の場合、日本産にも応用が利くというわけだ。日本固有種のトキが絶滅したような事態に陥らないために、地道に基礎的なデータを集めることは欠かせない。
昨今、平野部でもイノシシなどによる農作物被害が増加したり、生息域が広範囲化したりと問題になっている。また、立山では真冬でも雨が降るなど自然に微妙な変動が起きているのではと思わせる出来事が多い。ライチョウの保護のために、大型動物の適正な捕獲や駆除も必要で、里山の整備なども欠かせない。加えて、温暖化防止のため一人一人が生活に工夫を凝らすことも重要だろう。
今年は国連が定めた「国際生物多様性年」である。その趣旨は、人間の生活や生産活動が原因で起こる種の絶滅への懸念が高まる中、生物多様性が人類の幸福にとっていかに重要であるかを訴えるものだ。ライチョウは環境の「指標」だ。保護を通し身近な環境を考える契機にしたい。