2010年01月18日
「就活くたばれデモ」は、惜しいけどすごく間違っている
こんばんは。kanedoです。一日に二回人身事故で足止め食らいました(´・ω・)
さて、twitterのRTで、なんか変わった企画を見つけました(´・ω・)
就活くたばれデモ@TOKYO
http://www31.atwiki.jp/kutabare-demo/
http://www31.atwiki.jp/kutabare-demo/tb/1.html
就活に対する疑問、楽しく叫んでみませんか?
「就活くたばれデモ@TOKYO」は就活に対するアナタの思いを表現する場を提供します!
主催者はフツーの大学生。既存団体と一切関係ナシ!だから、どなたでも気軽に参加できます。
(1回限りのこのイベント、)みんなで一緒に日頃のストレスを発散しましょう。
※昨今の就職活動早期化による大学生活への影響を訴える!
※就職を求める学生を食い物にする就職情報会社へ喝!
※老害がしがみつく既存団体の責任はいずこへ!?
※新卒で就職できないと一生やり直せない!?
※新卒一括採用なんてなくなっちまえ!!
成程。自由主義者かねどーとしては、勿論このような行動が起こることそれ自体を否定しようとは思いません。でも、参加はやめた方がいいと思います。これは僕が外から見ている限り、自己判断/自己責任で行動できず、セミナーや就活ビジネスに振り回されたあげく、人に責任をなすりつけるような、企業が必要としない人の思考回路であるように見えるためです。「現在慶應大学、成蹊大学、法政大学等の学生が参加を予定」というのが、またなんとも色々な想像をかきたてますが、そのへんはノーコメントで(´・ω・)
まず、現状の「就活」にかなりの変な要素な要素が含まれていること自体は、僕も同意します。また、僕だってスーツであくせくするよりはゆっくり読書とかデートでもしてたいなぁ…と思いながらついこの間まで就活していたので(その時のまとめはここ)、企画者の気持ちも理解できます。しかしこの企画で良くないのは、
「何故そうなってしまうのか。現状のどこに問題があるのか」
「では、どこを変えることで参加者(学生と企業)にとって望ましい結果になるのか」
「もし変えられないなら、その中で自分は個人としてどう立ち回っていくべきか」
といった就活に対する考察が一切なく、ただ大声で騒いで主張を通そう、あるいはウサ晴らしをしようという幼稚な所に着地してしまっていることです(´・ω・)
現状の就活が持っている問題のうち大きなもの、すなわち、
・選考が始まるのが早すぎるため、学生が落ち着いて勉強できない
・新卒で就職できないと、その後非常に不利になる
・企業側も、様々な広報活動のためのコストがかさんでいる
といったものについては、政治や経済に関する多くの問題と同様、「ここを叩けば解決する」というような、わかりやすい「悪」が存在しません。これらは学生と企業をマッチングするシステムがうまく回っておらず、学生にとっても企業にとっても望ましくない均衡に落ち込んでしまっている「市場の失敗」です。例えば、就職活動の期間が企業ごとに散らばった上、どんどん早期化してしまうような現象は、経済学で"unraveling"と呼ばれており、例えば研修医と病院のマッチングのような他の例でも観察される失敗です(´・ω・)
このような状況では、例えば一人の学生が「大学生活はもっとゆっくり過ごすべきだ。僕はもっと遅くから就活を始める」とすると、他の学生は早くから動き始め、情報やノウハウを蓄積しているので彼が損をします。また、ある一つの企業が「学生にはもっとじっくり勉強してほしい。我々はもっと遅くから採用活動を始める」とすると、他の企業は早くから採用活動をしているので優秀な学生を取られてしまいます。一度全体が悪い均衡に陥ってしまうと、そこから一人逸脱するのはその個人にとって損なので、本当は学生と企業の双方にとってもっと良い均衡が可能性として存在するのに、移ることが難しくなるのですね。経済学の一分野であるゲーム理論では有名な問題で、「囚人のジレンマ」と言われています。興味のある方は、以下の本などを読んでみてください(´・ω・)
- 作者: アビナッシュディキシット, バリーネイルバフ, 菅野隆, 嶋津祐一
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 1991/09
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- Amazon.co.jpで詳細を見る
もう一度言います。就活の現状は、企業とか就職情報会社とか既存団体のような「悪」が、学生を搾取しているから起こっているわけではありません。学生、企業、就職情報会社のような、それぞれの思惑を持つ沢山のプレイヤーが参加する、「就活ゲーム」というシステムがうまくデザインされていないために、そのゲームの中でみんなが個人としては合理的に行動した結果、みんなにとって望ましくないことになっているのです。それを理解せず、具体的な対案を出すでもなく、ただ気に入らないからお前らがなんとかしろと騒ぐのは、知性や自立といった所から最も遠い行動であり、現在の日本を支配している「小学生民主主義」と本質的に同じです。大体養ってもらおう根性全開にしながら「老害がはびこる既存団体」って美学的にどうなの(´・ω・)
デモというのは、非常に「重い」抗議行動です。このようなデモを本気でやるのであれば、この「就活ゲーム」には誰がどのような利害を持って参加しているのかを分析した上で、どういう経路でプレイヤーの利得やゲームのルールを変えるかを考え抜き、その上で誰に何を訴えるべきか綿密に戦略を練り、メディアを通じれば「具体的な」交渉力が出る位の人数をあらゆる手段で集めた上で、決死の覚悟を持ってやるべきです。理念も打算もないウサ晴らしの祭りでは、単に企業のブラックリストに載るだけでしょう(´・ω・)
<追記1/19>
「まずは異議申し立てをすることが大切」という趣旨のブックマークコメントをいくつか頂きました。なるほど、確かに学生と企業のマッチング制度設計について、いきなり具体案を出せと言われても難しいというのはもっともです。僕も日記のネタ作りのために何度も考えてはいるものの、いまだによさそうな案は出ない問題ですし(卒論のネタ候補の一つでもある)。
ただ、その場合の次善の打ち手が、目的も大義もなく「みんなで一緒に日頃のストレスを発散しましょう。」というのはどうなんでしょう。数学の問題で満点の答えが出せなくたって、せめて自分がわかったところまでは解答の道筋を示すとか、(1)だけ解けましたとか、自分の能力や誠意を示す方法はいくらでもあると思うのですが、これはもう解答放棄してダルマ描いてる。
「問題を発信して、社会の関心を高める」という目的があるなら、まずは「就活の問題について真剣に話し合う学生勉強会」をやって問題はなんなのかをはっきりさせ、メンバーで共有したりとか、「就活の問題点についてリクルートの社員さんと話し合う会」を通じて仮想敵と議論を行い、論点をよりシャープにしたりというステップがあってしかるべきではないのでしょうか。いきなり人集めて強行手段に出るのは社会運動でなく「祭り」と言います。農民一揆だってちゃんと話し合って血判状作ります。
おそらく現状では、「社会に対する問題提起というよりは、イベサー(笑)とかやってた人がこの時期やる事無い上に就活上手くいかない事が重なって、見切り発車で企画された憂さ晴らしイベント(twitterの返信より抜粋)」と言われても仕方ないでしょう(´・ω・)
<追記1/19>
ブックマークコメント等でだいぶ論点が出揃ったように思います。反論の比較的多くに対しては、「だから『デモやるな。禁止』って主張じゃないんだってば」というので足りるでしょう。
「このようなデモをするのがその人個人の動機に照らし合わせて合理的な人もいるだろう」という主張については、その通りだと思います。僕も含め人間は、自分が成功した時には実力で説明し、失敗したときにはそれ以外の要因で説明したがるバイアスがあるので。そうだとしても、きちんと戦略を組んで「ああ、この人達は社会をよくしようとしているのだな」と思ってもらえるようにした方がいいと思うけどなぁ。現状では真の動機があまりに露骨に透けて見えるというか(´・ω・)
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