DNA鑑定作業をする研究所員=県警科学捜査研究所
最先端の科学技術による「DNA型鑑定」が、さまざまな事件の解決に結び付いている。かつては強盗殺人などの凶悪事件に限って実施されてきたが、最近は鑑定作業のスピードや個人識別の精度が飛躍的に高まり、窃盗などの身近な事件にも活用されている。「今や犯罪捜査にとって不可欠」(捜査関係者)とされる、科学捜査の“現場”をのぞいてみた。
件数が100倍
大分県庁舎内にある県警科学捜査研究所(科捜研)。鑑定装置が並ぶ一室で、白衣姿の男性所員がパソコン画面を見詰めていた。ある性犯罪の現場で、犯人が残したとみられる体液から検出したDNA型を示すデータだ。
DNA型鑑定は、一人一人の体細胞のデオキシリボ核酸(DNA)の異なる部分を比較することで個人を識別する鑑定法。血痕、唾液(だえき)、毛髪といった事件現場の遺留物のほか、容疑者のほおの内側の粘膜から採取した試料を使って行われる。
科捜研が本格運用を始めたのは1996年2月。この年は凶悪事件5件で活用した。「当初は試薬の調整など手作業の部分も多く、1件処理するのに数週間はかかっていた」と担当者。
2003年にフラグメントアナライザーと呼ばれる自動分析装置が導入され、「処理スピードが1件につき1日~数日と格段にアップした」。微量だったり、古い試料でも分析が可能となった。これを機に鑑定事件数は05年に100件を超え、09年は500件近くと運用当初の約100倍に増えた。窃盗など幅広い罪種にも活用され、身元不明死体の身元確認にも用いられている。
個人識別の精度も大幅アップ。当初は検出したDNA型が別人と一致する確率は「千人に1・2人」だったが、03年に「1100万人に1人」、06年には検査試薬を更新し、鑑定個所を増やしたことで「4兆7千億人に1人」と飛躍的に向上した。
過信は禁物
「動かぬ証拠だった」。捜査関係者の1人が振り返る。06年5月、大分市のビジネスホテルで従業員女性が殺害され、現金が奪われた事件。捜査線上に浮かんだのは元同僚の女だった。犯人特定の決め手の一つになったのは、女が住んでいた集合住宅の敷地内で見つかったスリッパから出たDNA。
スリッパはこの女の物で、表面に付着した血痕から被害女性のDNA型を検出。照合の結果、県警は女が犯行に関与したと断定した。女は指名手配から10日後、逃亡先の福岡市で逮捕された。
裁判員裁判の導入で、裁判員に分かりやすい客観的証拠となるDNA型鑑定の重要性はますます高まっている。一方で法曹関係者からは「足利事件は科学捜査を重視するあまり冤罪(えんざい)を生んだ。過信は禁物」と厳しく指摘する声もある。
警察庁は新年度、庁内に大量の試料を一度に鑑定できる「DNAセンター」を新設するほか、試料劣化を防ぐため各警察署に保管用冷凍庫を配備し、鑑定機材も増強する方針。
(社会部・藤内教史)
<ポイント>
DNA型鑑定 指紋の照合と並ぶ科学捜査の代表格。菅家利和さんの再審が始まった栃木県の足利事件では、鑑定を行った91年当時の個人識別精度の低さが指摘された。現在は「STR型」と呼ばれる検査法で染色体上の15カ所を鑑定、精度が大幅に向上した。各都道府県の警察が採取した現場試料や容疑者の型情報は、警察庁がデータベースで一元管理。容疑者のDNA型が、別の未解決事件の現場に残された試料の型と一致して摘発につながるケースもある。
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