2010年1月18日
マスメディアよりも、ライブハウスなどを中心に活動する「地下アイドル(インディーズアイドル)」の活動が各地で盛り上がっている。女性アイドルといえばもっぱら男性の視線に支えられる存在だったが、作詞作曲もこなすなど、自己表現も多様になってきた。
「こんにちは!」。この日が初お披露目となるアイドルグループ「あいどるすくーる」の声が響き渡る。歌が始まると、観客は「オタ芸」と呼ばれる派手なパフォーマンスで盛り上げる。
愛知県春日井市のライブハウス「GSPスタジオ」は「地下アイドルの聖地」と呼ばれる。昨年11月末に開かれたイベントには東名阪から9組が出演、東京や大阪からの客もいた。イベント後はアイドルが自らCDや写真を売り、ファンと交流する。月に2〜3回のイベントの出演枠は3カ月先までいっぱいだ。
地下アイドルの起源は「アイドル冬の時代」と言われた90年代初頭にさかのぼる。歌うアイドルのテレビ出演が難しくなり、地下のライブハウスに活路を見いだした。
■自己流の曲・衣装
当時はもっぱら既存のアイドルソングのカバーが中心だったが、最近はオリジナル曲を歌うアイドルが増えてきた。作詞作曲だけでなく、衣装や振り付けを自己プロデュースする地下アイドルも多い。地域も東京・秋葉原から全国に広がっている。中でも名古屋周辺は大規模イベントが開かれるなど活発だ。
名古屋を拠点とし、地元テレビにも出演している城(しろ)奈菜美さん(23)は、本業である会社員の月給のほとんどをグッズや衣装制作につぎ込む。「自分の言葉を曲に乗せて伝えたい。お客さんが喜び、次回のライブに来てもらえるようにしたい」と話す。
■成長楽しむファン
隆盛の背景には、ファンの存在も大きい。GSPスタジオの高橋爾社長(42)は「バンドのイベントでは、お目当てのバンドが終わると帰ってしまうお客さんも多いが、地下アイドルのお客さんはジャンル全体のファン」とみる。ライブハウス「Zoo Station」(名古屋市)オーナーの大久保卓弥さん(37)は「お客さんは自分たちで育てるというプロデューサー的な感覚を楽しんでいるのでは」。
「AKB48」の名古屋版「SKE48」と地下アイドルを同時に応援する会社員の田尾知之さん(36)は「SKEは人気が出てチケットを取るのが難しく、地下アイドルイベントに通うようになった。話せて握手もできて『距離感ゼロ』なのがうれしい。妹みたいな存在で成長を見守ることができる」。
地下アイドルをプロデュースする音楽家のサエキけんぞうさんは「男性ファンの中で激しくパフォーマンスする地下アイドルは、品の良い従来のアイドルとは違うアグレッシブな魅力がある。男性主導ではなく女性が主体という点でも従来のアイドルと違う。自己実現したいという欲求が強く、ロックスターみたい。70年代のパンクムーブメントのようになる要素がある」とみている。
■専門誌創刊号、ほぼ完売
専門誌も登場した。昨年10月に創刊された「きゅあ Mani」はネット通販限定だが、1万5千部の創刊号はほぼ完売した。インタビューや写真の撮られ方などファンだけでなくアイドルにも実用的な内容だ。
発行元の「エイジアハウス」では、まずは多くの人にライブに足を運んでもらい、インディーズアイドルの歌唱力の高さを知ってもらうのが狙いという。メジャーへの後押しにも、と考えている。
同社はビジュアル系ロックバンドの情報誌を手がけていた。夏野元嗣代表は「ビジュアル系とインディーズアイドルは物販や客の乗せ方がよく似ている。アニメやビジュアル系と並んで海外で親しまれているアイドルを、日本文化として広めたい」と米国での展開も視野に入れている。(小林裕子)