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社説:新年を迎えて 大胆な発想で切り開け
海図のない航海に出ているような気がしてならない。明確な目的地がないまま、ただ波間を漂う。大波が来れば、それを防ごうとするのが精いっぱいで、その先が見えない。
2010年を迎えた。「新年」という明るい語感とは対照的に、いまの日本は閉塞(へいそく)感に覆われたままだ。
昨年の政権交代で日本丸の船長が代わったが、新船長の鳩山由紀夫首相の判断が揺れるため、船はしばしば迷走する。国民の期待が大きかった分、失望感もまた小さくない。
その鳩山政権に決定的に欠けていることがある。国家全体をどのような方向に導き、どんな社会を目指すのかのビジョン、つまり「海図」である。
日本が「一億総中流」といわれた時代から「格差社会」へと移行したことは明らかだ。非正規労働者は働く人の3分の1を占め、年収200万円以下で生活する人が1千万人を超える。これが現実である。
成長至上主義の優勝劣敗社会から、競争と安心が両立する社会へといかに脱皮できるか。大きな意味でいえば、これが鳩山政権に課せられた最大の課題だと言いたい。
翻って、秋田県政はどうか。昨年4月に寺田典城氏から佐竹敬久氏へと知事が代わり、国政より前にリーダーが交代した。まだ1年にも満たない佐竹県政を評価するのは時期尚早かもしれないが、良く言えば「堅実」、厳しく言えば「無難過ぎて物足りない」との印象を抱く。
いま、寺田県政が進めた「あきた21総合計画」から、佐竹県政による「ふるさと秋田元気創造戦略」(仮称)へと切り替える作業が進んでいる。創造戦略は2月までに策定、10年度から4年間を推進期間とする。
要するに、新たな「秋田の海図」となるものだが、素案を見る限り、新味に乏しい。総花的であり、ありていに言えばこれまでの総合計画との違いが明確に伝わってこない。
第一、10年後に目指す秋田の姿が「産業が成長し、若者をしっかり支えている秋田」「子育てしやすく少子化傾向に歯止めがかかっている秋田」では、作文の域を出ない。これだと県民が将来に向かって夢を抱くこともできないだろう。
今更言うまでもなく、本県の置かれた状況は非常に厳しい。少子化と高齢化は全国に先んじる形で進み、1人当たりの県民所得は06年には東北最下位にダウンした。
この難局を打開するには、今こそ大胆な発想と独自の視点、行動力が必要であることを強調したい。
例えば高齢県だと嘆くのではなく、逆に団塊の世代や高齢者を他県から呼び込む。さまざまな知識と人脈を持つ人材が集まれば、新たな形のコミュニティーが生まれる可能性がある。「高齢モデル県」をつくるぐらいの心意気がほしい。
少子化対策にしても、若者の県外流出阻止に力点を置くのではなく、県外へ出たい若者に対しては「人間形成の期間」ととらえ、いま以上にAターンに力を注ぐ。県庁第二庁舎の広いロビーを活用して、男女の出会いの場をつくる。そんな柔軟な発想があってもいい。
要は、既成概念にとらわれない発想で創造戦略を策定し、分かりやすく情報発信することが重要なのだ。希望と展望に満ちた「秋田の姿」を描いて、力強い一歩を踏み出せるか。佐竹県政の真価が問われる。
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