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戸別所得補償 「ノー政」もう許されぬ


 今年は民主党農政元年。コメ農家の赤字分を国費で補てんする戸別所得補償制度のモデル事業が成果を示せるかどうかが大きな関心事だ。

 稲作経営や担い手、コメ政策の柱の生産調整(減反)、食料自給率がどうなり、どう変革していくべきか。食料・農業・農村の将来について国民的な議論を期待したい。

 戸別所得補償の2010年度関連予算は農水省の要求の満額(5618億円)が認められた。参院選対策の色合いも濃いが、従来の補助金行政から所得補償政策への転換が加速する可能性もある。

 農業補助金の無駄は行政刷新会議の事業仕分けでも指摘された。例えば畜産の補助金は、農水省関連の天下り団体などが何層にも介在して農家に届く過程で天下り役員の給与などにもなっている。

 「直接支払い」に移行すれば天下りが絡む補助金の無駄や政官癒着を排除でき、農業対策としては国際的な流れでもある。財源不足で土地改良事業などが削減されたが、限られる予算のなかで優先順位を考えればやむを得まい。

 だが、制度が狙い通り機能するかは未知数との見方が少なくない。政権に就いて短期間で制度設計したため農家は期待と不安が交錯する。

 はっきりしているのは担い手の実態をみれば農業は瀬戸際。自公政権のような迷走・失敗は許されない。モデル事業をどう軌道修正していくか初年度から正念場だ。

 全国平均の販売価格や生産コストを基準に一律支給される定額補償は10アール当たり1万5千円。減反に参加する販売農家すべてが対象で、減反参加メリットは拡充された。

 効率化や規模拡大を進めれば恩恵が大きい半面、条件不利地域の小規模農家は赤字補てんだけではコメ作りとその意欲、家計の持続が困難との指摘がある。やはり集落営農などの集約化を促す加算措置が欠かせないだろう。

 減反に参加するかどうかは事実上の選択制になることで米価が下落する恐れもある。特にモデル事業のなかの水田利活用自給力向上事業は、主食用米の生産数量目標を守らなくても麦・大豆など作れば助成金を得られる。

 有利な転作作物を作って助成金を受け、コメも増産する農家が続出すれば米価急落の事態も想定される。コメが過剰、需給均衡のどちらに転ぶかはまだ見極めにくい。

 農家の不安に対し所得補償は想定以上の米価下落時の追加給付や、転作作物の助成額が現行制度より大幅減額になる地域のため激変緩和措置が設けられた点は評価できる。モデル事業を踏まえた本格的な制度設計でも、きちんと組み込むべきだろう。

 制度的な矛盾は積極的に是正しないと農家の信頼は得られないが、一方で農家に甘いだけの制度になれば選挙目当てとの不信を買い、制度持続は困難だ。国民に農業・農村の実態を理解してもらったうえで食料戦略をどう描くか。理念と具体案を明快に描き説明を尽くしてほしい。

松本利巧(2010.1.13)

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