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漆再発見 日本の文化絶やすまい


 「ディスカバー・ジャパン」−。40年前に始まった旧国鉄の懐かしいキャンペーンがよみがえる。ただし、この「ジャパン」は日本でなく漆の意味と受け止めたい。

 今年、漆に関するイベントが相次ぐ。今月15日からは東京で「過去から未来−ときをつなぐ漆」と題するセミナーが開かれる。

 主催は、浄法寺漆で知られる国内最大の産地・二戸市と明治大、漆サミット実行委員会。漆の持つ魅力を歴史や科学、文化などの多彩な分野から見直し、将来の可能性を探ろうという試みだ。

 二戸市は内閣府の「地方の元気再生事業」に採択され、浄法寺漆振興事業に取り組んでいる。昨年は京都で市単独開催だったが、今年は漆のネットワークが広がった。

 明治大は次世代に向けた活用を目指す「漆の学術フロンティア推進事業」に取り組んでいる。国内の主な漆生産地が交流するのも、漆の未来を考える上で極めて大きな意義がある。

 10月からは、県立博物館が開館30周年記念特別展として「いわての漆文化」(仮称)を開く。10周年は鉄、20周年は馬だった。底を流れるテーマは「岩手らしさ」だ。

 展示では縄文以来、岩手に根付いてきた漆文化を振り返る。生業としての漆かき技術のほか、遺跡から発掘された漆製品、美術工芸品、現代の工芸品を一堂に集める。会期中は専門家によるシンポジウムも開く。

 日本が古くからはぐくんできた漆の文化が、再び脚光を浴びているのだとしたら歓迎したい。しかし、手放しで喜んでばかりはいられない。漆産業の現状は決して楽観を許さないからだ。

 日本の漆需要量の98%は中国産が占めている。残りの国産の約60%が浄法寺漆だ。二戸市では新たな植林が進み、漆かき職人も健在だが、往時と比べて生産量の落ち込みは著しい。

 日光の世界遺産の修復のために約4トンの浄法寺漆が使われている。文化財修復には品質の良い漆が欠かせないことをあらためて示した。今失えば復活は難しい。日本の文化を守っていく上でもかけがえのない存在だということを再認識したい。

 岡村道雄奈良文化財研究所名誉研究員は考古学の成果を基に、漆文化は中国渡来ではなく日本起源という説を打ち出している。縄文以来1万年に及ぶ文化を、岩手が支え続けていることにもっと誇りを持っていい。

 黄金文化と言われる平泉の文化遺産も実は、漆文化の極致でもある。漆の特徴は堅牢(けんろう)性と接着力の強さにある。金色堂は「皆金色」だが、金箔(きんぱく)の下には質感豊かな黒漆が使われている。

 蒔絵(まきえ)の重要無形文化財保持者である室瀬和美さんは「仕上がった後は表に出てこないが、漆が美をしっかり支えている」と指摘する。

 それは岩手県人の生き方そのものではないか。そんな気概で新年をスタートしたい。

村井康典(2010.1.11)

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