一関のまちづくり 構想策定は市民参画で
一関市の磐井川堤防改修に伴う「まちづくり構想」が振り出しに戻った。市が事業主体となってのJR一ノ関駅舎改築に市民が異を唱えたことが要因。市は図書館整備や中心市街地活性化策などに引き続き取り組むが、構想づくりに当たっては早い段階での市民参画が不可欠だ。
同構想は、国土交通省による堤防改修に伴って持ち上がった。一関図書館や民家などを移転する必要があり、市が素案をまとめた。
素案は▽市が事業主体となって駅舎を線路上に移築し、橋上化する▽駅舎跡地に複合施設を建設し、図書館などの公共施設や観光情報案内機能などを集約する▽駅への東西自由通路新設−などが骨子。平泉の世界遺産登録を見据えて、駅と駅周辺を一関の顔としてふさわしい形に整備し、併せて中心市街地の活性化を目指したものだ。
試算事業費は駅舎関係44億円など約132億円に上る。しかし、国の補助金や合併特例債などを充てるため、市の負担は36億円程度で、JR負担などでさらに減額される−としていた。
この素案に対し、一関商工会議所は「駅舎は改築せず、公共施設は分散配置して市街地活性化を」との独自案を2009年3月に提言した。さらに、市が実施した市民懇談会や意向調査などでも市が事業主体となっての駅舎改築に疑問の声が寄せられていた。
市は基本構想案を策定するため、市内各層の代表らによる市民検討委員会を5月に組織。同検討委は、市の素案やこれまでに寄せられた意見、提言を基に論議を重ね、8月に「市が多額の費用を負担する駅舎建設は現段階では市民の合意を得られない」と市に報告。市議会特別委も同様の意見をまとめた。
素案に対し、さまざまな立場から異論が出たことで、市は「方針転換」を迫られることになり、10月に新たに就任した勝部修市長は、市議会12月定例会で素案の見直しを表明、白紙に戻した。
その上で、市が事業主体となっての駅舎建設や複合施設建設は行わず、図書館は駅周辺整備と切り離し、市教委が市民とともに建設地などを検討する。中心市街地活性化基本計画の策定にも取り組む方針を明らかにした。
素案の中で市は、国の補助金や有利な起債の導入によって事業費は圧縮されるとしていたが、市民にはそれでもなお、市が負担する事業費は多額と映った。税金の使途に対する市民の厳しい目が「待った」をかけた形だ。
見直しは、市が素案づくりに着手して約2年を経てのこと。これまでの論議が白紙になったことに徒労感も漂う。当初から市民が協議に参加していれば十分な検討ができた−との指摘もある。
市は、図書館整備など今後の構想づくりに市民との協働で取り組む方針だ。堤防改修の工程をにらみながらの対応となるが、今回の轍(てつ)を踏まないよう、市民の意見を丁寧にくみ取り、構想に反映させてもらいたい。
下田勉(2010.1.9)
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