<新年企画 拓(ひら)く>林業再生 地域力復興の核となれ
国土の3分の2を占める森林の荒廃が深刻だ。森林所有者の中には個人経営の林業はもう成り立たないとの悲観論すらある。長年、ヤマを守り続けてきた林業者自身が希望を捨て、森を見放し始めたことに危機感を覚える。
日本の森林は世界的にみても特異な存在だという。世界の森林面積は毎年急速に減り続けているのに、日本はほぼ一定、しかも容積自体は増加傾向にある。外材依存度が高く、国内の森の木を切って活用していないからだ。
それは木の蓄積量をみると一目瞭然(りょうぜん)。統計的には毎年自然に増える分だけで、木材の年間の国内総需要量を賄えるほどの規模とされる。
戦後の人工林造成は1千万ヘクタールにもなり、多くが伐期を迎えたが、間伐などの手入れが不十分。今でこそ二酸化炭素を活発に吸収しているが、切らずに「高齢化」すると吸収力が衰える。日光が地表に届かないと下草も生えないため昆虫や野鳥も姿を消す。
広大な面積を有する森林の資源を活用しないで荒れるにまかせ、農山村は雇用の場が少ないため過疎が進む。巨額の税を投入してきた大規模林道は無駄な事業の典型。矛盾だらけの林業政策を続けてきたツケは深刻で、出直すぐらいの覚悟が必要だろう。
そんな危機迫る森林・林業の風向きが変わる可能性も出始めた。温暖化対策の中で温室効果ガスの吸収源として注目度が高まったからだ。
さらに鳩山内閣の「森林・林業再生プラン」の動きも注視したい。林業を再建して環境をベースとした成長戦略の一つに位置づけ、雇用を含めた地域再生を図る方針だ。
「プラン」は林業が盛んな欧米の10分の1程度しかない生産性を高めることが柱。今後10年間で木材を搬出する作業道の整備などに集中投資して効率化と安定供給を可能にし、木材自給率を今の倍の50%に引き上げる。
民主党は政権に就く前もドイツの政策などをモデルに林業・木材・住宅産業の活性化による雇用創出を掲げた。マニフェストで示した森林管理・環境保全直接支払い制度も制度設計を急ぐべきだ。
林業復興については経済界の政策研究団体も提言している。伐採・加工・流通販売の一体化や、木質バイオマス事業などの多様なビジネスを創出すれば関連の雇用は50万人に倍増できるとする。
鳩山内閣は「コンクリートから人へ」政策の軸足を変えている。公共事業依存の地方で、建設業は転換を模索する動きも強まろう。林業ニッポンが復活すれば農山村の活路がひらけるかもしれない。
松本利巧(2010.1.4)
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