<新年企画 拓(ひら)く>高齢者の見守り 安心を届けるビジネス
独りぼっちのお年寄りが増えている。子どもたちと離れて暮らす人も少なくない。2005年国勢調査では、県内の独居高齢者は3万6千人。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、高齢者単独世帯は20年後に倍増する。
急に具合が悪くなって、誰にもみとられずに亡くなる恐れもある。本人はもちろん、遠くに住む子どもたちの心配も尽きない。地域のつきあいが希薄になる中で、どうやって安心を確保すればいいのだろう。
ヤマト運輸盛岡駅前宅急便センターのセンター長松本まゆみさんは昨年、社長賞を受けた。職場で試行した「見守りメール便システム」が、新たなビジネスチャンスにつながると評価を受けた。
システムは、県社会福祉協議会の協力を得て行った。県社協からのお知らせをメール便として毎日手渡す。直接顔を合わせれば、お年寄りの体調がよく分かる。異常があれば県社協に連絡する。
きっかけは、松本さんの担当地区でおばあさんが突然亡くなったことだ。2日前に息子さんからの荷物を届けたばかり。「もう少し声をかけていれば防げたのに。仕事を通じて、孤独なお年寄りを見守りたい」―。
松本さんは、県立大社会福祉学部の小川晃子教授に相談を持ちかけた。小川教授は県社協などと連携し、情報通信技術を通じた「安否確認プロジェクト」の実証実験を、本県と青森県の5地区でスタートさせたばかりだった。
独り暮らしのお年寄りが毎日、自宅の情報端末から健康状態を発信する。情報は県立大の管理サーバーを通じて地区の社協に通知される。連絡がない時や異変がありそうな時は、職員や民生委員らが電話をかけて確認する。
「地域のつながりを再構築することが目的です」と小川教授は説明する。松本さんの取り組みは、このプロジェクトを土台にして、宅配業者がより積極的に見守りに関与する試みだ。
「お年寄りは人に迷惑をかけたくないという気持ちが強い。具合が悪くても、電話だと元気と答える。だから顔を合わせることが大事」と松本さんは話す。
メール便は1通80円。今回は県社協の補助を得て行ったが、遠くに住む子どもが費用を負担してくれれば新たなビジネスになるかもしれない。他の企業と連携すれば、日用品や食料品と一緒に「安心」も届けることができる。
ビジネスだから長続きできる。企業が参画して高齢者を見守るモデルの構築に向けた模索が始まりつつある。
村井康典(2010.1.3)
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