2010年1月18日(月) |
最近、県内で発生した事件や事故による犠牲者の遺体を司法解剖する場合、県警は秋田大学や岩手医科大学に依頼している。 これまで解剖を担ってきた弘前大学医学部法医学講座が昨年11月中旬以降、解剖を休止しているためだ。 死因を特定する解剖は人命にかかわる事件捜査に欠かせない。解剖しなければ見落とされる犯罪もある。 だが、全国的に大学の法医学教室(講座)は深刻な解剖医不足、それに伴い医師の負担が増え体制が弱まっている。弘大の場合はそれが限界に達した。 死因の究明は、犯罪捜査の必要性だけでなく、公衆衛生の観点から実施する行政解剖も含め制度を整備する必要性が指摘され、国も検討を進めている。 しかし、国の対策を待つまでもなく、県内関係者が知恵を絞って、弘大で解剖できる体制づくりを検討すべきではないか。早急な再開が望まれる。 司法解剖は、死因が分からない変死体について警察官が犯罪性を判断し、検視官が検分、必要があれば解剖という手順をたどる。解剖により外見では分からない死因や犯罪性の有無が判明する。 警察が扱う変死体は全国で年間15万〜16万体。そのうち解剖されるのは1割に満たない。先進国の中で、かなり少ないという。 一方、全国で約80大学の法医学教室を中心とする解剖医は150人を切る。以前に比べ減っている。医師志望者も法医学のような基礎講座は敬遠しがちで、このままでは後継者の先細りは避けられない。 弘大での解剖数は年間100件前後。解剖医は昨年春に1人が他大学に転出し、それ以降は黒田直人教授1人だけだ。補佐スタッフも足りない。大学での講義や実習も抱える。 黒田教授は、大学や県警サイドに人的な支援体制の強化を求めてきたが、前向きな対応は見られなかったという。「体力的、精神的に限界を超えた。無理をして、万が一間違った判断をしたら、最悪の場合冤罪(えんざい)につながる」。黒田教授は休止に至った事情をこう説明する。 司法解剖の必要性が再認識されたのは2007年に時津風部屋の若い力士が死亡した事件だ。愛知県警は当初「病死」で処理、司法解剖はしなかった。死に不審を抱いた親が病院に解剖を依頼、暴行死が発覚した。 ほかにも解剖されないまま病死や自殺と判断された事案が、別の事件の関連で犯罪だったことが判明するケースは後を絶たない。 隣県に解剖を依存している現状に県警担当者は「どこにどういう事情があろうと捜査に支障のない体制をとっている」という。本当に支障はないのか。 犯罪捜査は初動が重要だ。迅速な死因特定は必要ないのか。秋田大や岩手医科大も本県の分まで引き受け、負担が増えている。県警の依頼にいつも応えられるとは限らない。 司法解剖は、犯罪や事故原因の見落としを減らし、第二、第三の事件や事故の未然防止につながることもある。決して死者だけのためではない。 弘大が法医学の看板を掲げながら解剖ができない体制でいいのか。 |